仕事のためにビジネスを識る

よりよいビジネス書に出会えるための指南書

ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』くだらない心理テク本をたくさん読むくらいなら、この1冊を読もう

誰だって心理学には興味がある。

なぜなら、ちょっとしたテクニックで他人をコントロールできれば、いろいろと役に立つからだ。

私もその1人であるが、今まで良い本に出会えていなかった。

理由は、よくある一般書籍は、それこそ表面的なテクニックが並べられているだけで、それを覚えこそすれど体系的に理解することができなかった。一方で、体系的に書かれている本を探すといわゆる学術書に行きついてしまうからだ。

求めていることは、そうじゃない。

そんな時、応用的な心理学が体系だって書かれている、とてもバランスの良い本に出会った。

それが、本書『影響力の武器』である。

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

本書では、いろいろな心理学的事例を、なんと6つの法則に集約している。

例えば、「ドア・イン・ザ・フェイス」のような有名なテクニックも、この6原則に含まれてしまうのだ。

信じられないという人は、私が実際に読んでみて内容をまとめたので見てみてほしい。

ぜひ、本書を読んで6つの法則を押さえ、今までのテクニックを寄せ集めただけというレベルから脱却してほしい。

指標

  • テーマ:心理学
  • 文章量:普通
  • 内 容:易しい
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★☆

内容

第1章 影響力の武器

この本の中心となるコンセプト「カチッ・サー」を紹介している。

「カチッ・サー」とは、ボタンを押すとテープが流れる様を表している。

すなわち、人はあるトリガーによって引き起こされる行動パターンを持っている。

本来は、このような、ある条件に対する反射的な反応は、わざわざ考え込むという時間を省略できるので、効率的であり経済的であるのだ。

しかし、中にはこの仕組みを悪用したり、ちょっとした武器として利用する人がいる。

本書では、その仕組みを6つの法則に集約し、その行動パターンと対抗策について説明している。

第2章 返報性

いわゆるギブ・アンド・テイクのことだ。

だいたいの人は理解できると思うが、誰かに何かをしてもらったとき、自然と次はこちらから何かをしてあげようという気持ちが湧く。

これを利用すると、先にこちらから何かをしてあげれば、自然とこちらが欲しいものを相手に要求できるかもしれない。

この逆バージョンとして、譲り合いもこのパターンに含まれる。

つまりは、今回こちらが譲ったのだから、次回はそちらが…という圧力だ。

このパターンに比較的有名な応用テクニック譲歩的要請法、つまりドア・イン・ザ・フェイスが含まれる。

第3章 コミットメントと一貫性ー心に住む小鬼

人は、自分の言葉や行動を一貫したものにしたいという欲求がある。

そのため、人はコミットメント(他者への宣言、意志の表明)を行うと、その後はそれに合致した要求を受け入れやすくなる。

思い返してみれば、学校や会社が本人に目標を考えさせ、みんなに見える形で書き出させるのは、この原理に則っている。言ってしまったからには、達成せねばという気持ちになるのだ。

第4章 社会的証明ー真実は私たちに

ザ・日本人のような、空気を読む、まわりの人に従ってみるというやつだ。

よくある話だが、自分は絶対にAだと思っていたのに、他の人全員がBと答えると、なぜか自分もBと答えてしまうのだ。

第5章 好意ー優しそうな顔をした泥棒

誰だって好意を抱いている人のお願いは聞いてあげたいものだ。

ちょっとおもしろいと思ったのが、この原理をもう一歩進めると、人は望ましいものを自分自身と結び付けたがるという性質が見えてくる。

例えば、スポーツを観戦している人は応援しているチームが勝つと「俺たちは勝った!」と叫ぶ。しかし負けると「奴ら負けやがって!」と愚痴るのである。

第6章 権威ー導かれる複縦

有名なミルグラムの研究、すなわち権威を持った支持者からやれと命じられれば、それが致死的な量でも電気ショックのボタンを押してしまうというやつだ。

悲しいかな、偉い人が指示すると、人は偉いというところばかりに気を取られ、その内容はあまり気にせず盲目的に従ってしまうようである。

第7章 希少性ーわずかなものについての法則

こちらも実感できる性質だろう。

数量限定、期間限定と言われるとついつい買ってしまう。

確かに希少性があると論理的に考えても手に入れておいた方がいいのかもしれないが、それとは別に心理的な力もはたらいてしまうのだ。

第8章 てっとり早い影響力ー自動化された時代の原始的な承諾

冒頭での「カチッ・サー」という素早い意思決定は、情報過多な現代には必要となる性質だ。

そのトリガーや発動する場面が、想定されたものである限りなんの問題もない。

しかし、ねつ造されたトリガーや、悪意のある場合には、発動し掛けている性質を自覚し、対抗していかなければならない。

まとめ

冒頭にも書いたが、この本を見つけたとき、求めていた本はこれだよ!と思った。

心理学の本といえば、学術よりの専門書か、応用例が羅列されただけの一般書だけしか知らなかった。

繰り返しになってしまうが、この本の価値は、専門用語を使わずあくまで臨床的である内容にもかかわらず体系的かつ演繹的に書いてあるところだと思う。

それでも専門家から見ればくだけ過ぎた内容なのかもしれないが、パンピーが普段の生活で応用するには十分な内容だ。

悪用はいけないが、普段ちょっとした機会に使えるテクニックを身につけるには良い本だろう。

D.A.ノーマン『誰のためのデザイン?』ユーザビリティーについて深く根本的な理解を得よう

あなたがシステムや機械の操作を間違える。

そして、上司や管理者に怒られた後で、あなたは思う「だって使いにくいんだもの」

 

誰しも今まで使いにくいアプリや機械に出会ったことはあるだろう。

  • なぜ、デザイナーはこんな使いにくものをつくったのだろう?
  • 人が使いやすいものをつくるにはどうしたらいいんだろう?
  • そもそも、使いやすいってなんだろう?

そんな問いに答えてくれるのが、デザインについての古典ともいえる『誰のためのデザイン?』だ。

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

 

今となっては、UI・UXなどのユーザビリティーや人間中心設計という考え方は、それなりに普及してきた。

しかし、当時は技術が未熟なこともあり、機械の都合に人間が合わせることも少なくなかったそうだ。

そんな時代に、初めてユーザビリティーという概念を定義し、それを解説したのが本書だ。

さぁ、読んでみたくなっただろう。しかし、いささか問題がある。

デザインという分野もあり、書いてあることが抽象的で、けっこう難しい。

そこで読んでみようかなと思う人に向けて、

  • どんな本なのか概観するため
  • 読んでいる最中に現在地を見失わないようにするため

簡単に内容をまとめた。

繰り返しになるが、本書に出てくる概念は抽象的で少し難しいものもある。

本書を読む際は、常に具体的なイメージに落とし込みながら、読み進めることをお勧めする。

指標

  • テーマ:デザイン
  • 文章量:多め
  • 内 容:難しめ
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

第1章 毎日使う道具の精神病理学

まず、デザインを議論するうえで必要となる基本的なコンセプトの説明から入る。

ノーマン曰く、機械は単純なルールに従うのみで融通の利かないものだ。

それなのに、人がこの奇妙なルールに従わないと機械は動かないし、何より人が非難される。

あるべきはそうではないのだ。

人はよく間違う。この「人はよく間違える」というルールに、機械の方を従わせるべきなのだ。

 

ノーマン曰く、良いデザインには2つの特徴がある。

  1. 発見可能性
  2. 理解

そして発見可能性は、

  • アフォーダンス
  • シグニファイア
  • 制約
  • 対応付け
  • フィードバック

の5つの心理学的概念から得ることができる。

本書を読む際は、この関係性を意識するとよい。

また、デザインに「理解」を与えるためにはシステムの概念モデルを考える必要がある。

第2章 日常場面における行為の心理学

次に、人と機械のインタラクションのフローを説明している。行為の七段階理論だ。

すなわち、人が機械を操作するとき、

  1. ゴールの形成
  2. 行為のプランニング
  3. 行為系列の詳細化
  4. 行為系列の実行
  5. 外界の状態の知覚
  6. 知覚したものの解釈
  7. ゴールと結果の比較

というステップを辿るのだ。

これはちょうど人から機械、機械から人へとV字になっている。

第3章 頭の中の知識と外界にある知識

人が何か行動を起こすとき、必要な知識は人の頭の中にあると思われがちだ。

確かにそのような知識もあるが、案外その場で目に入った情報を利用している。

例えば、新しくダウンロードしたアプリだって、なんとなく操作できる。これは、ボタンの形だったりが、そこを押すことができ、押したらどうなるかということを示している。ボタン自体が外界にある知識となっているのだ。

しかし、iPhoneユーザーがアンドロイドを使うと戸惑う。

これは、すなわち、そういった外界にある知識を利用するにあたり、文化や習慣がベースとなり下支えしていることを意味する。

第4章 何をするか知るー制約、発見可能性、フィードバック

人が何ができるか、どうすべきかを知るとき4つの制約を利用している。

  • 物理的制約
  • 文化的制約
  • 意味的制約
  • 論理的制約

制約というとわかりにくいが、つまりは、何ができないかを示すことにより、何ができるかを浮かび上がらせるのだ。

例えば、物理的制約として、レバーが1方向にしか動きそうにないなら、そちらに動かすしかないのだ。

第5章 ヒューマンエラー? いや、デザインが悪い

まず、人が起こすエラーをスリップ、ミステークの2つに分け説明している。スリップとはいわゆるうっかりのことで、ミステークは意図的なものだ。

どちらにしろ人はエラーを起こすので、

  • エラーの防止
  • エラーが起きた場合の対処

というのを機械側で想定しておかなければならない。

第6章 デザイン思考

ここでデザイン思考の登場だ。

デザイン思考とは、

  • 観察
  • アイデア
  • プロトタイピング
  • テスト

の4つを反復するというプロセスだ。

第7章 ビジネス世界におけるデザイン

題の通り現実的、特にビジネスの文脈における留意点を説明している。

まとめ

いやはや、読み始めた当初は話が抽象的で何を言っているかいまいち掴めない本だった。

ただ読み終わって、かみ砕いて消化してみれば、内容の全てがその通りであるように感じた。不思議である。

個人的に読んだきっかけは、いわゆるシステムのUI設計に最適解はあるのかと疑問に思ったからだ。そういう意味では、まったくもって明日からUI設計に活かせる内容ではないかもしれないが、すべてのデザイン(設計)に通じる深く根本的な考え方を理解できた気がする

何であっても、ものづくりに携わる人には、広く勧めたい本だ。

M.E.ポーター『競争優位の戦略』これも読もう、2冊合わせてポーターの屈強な理論を完成させる

偉大なる経営学者マイケル・ポーターは、最年少でハーバード大学の教授になった後、1980年に『競争の戦略』を出版した。

『競争の戦略』では、5フォースというフレームワークをベースに業界における競争戦略がどうあるべきか、緻密な分析がなされた。

そして1985年、その姉妹書として出版したのが『競争優位の戦略』である。

競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか

競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか

 

『競争優位の戦略』では、企業の中身に注目し、企業自体がどうあるべきかというところに焦点を当てている。

さぁ、読んでみたくなっただろう。しかし、『競争の戦略』と同じ問題にぶち当たる。

とにもかくにも分厚過ぎる。

なんと、650ページあまりだ。『競争の戦略』は、500ページであった。さらに分厚くなっているではないか。

実際、本書に挑戦するのは、『競争の戦略』を読破した人が多いだろうから、そこまで心配はしていないが、それでもなお指針は必要だろうということで、『競争の戦略』と同様に『競争優位の戦略』の内容のまとめを共有することにする。

ぜひ、これを参考に『競争の戦略』にも負けない、ポーター節を味わってほしい。

 

なお、どちらから読んでも構わないと思うが、『競争の戦略』を読む場合はこちらを参考にしてほしい。

www.take2biz.com

指標

  • テーマ:経営戦略
  • 文章量:とても多い
  • 内 容:高度(緻密)
  • 行 間:狭い、とても丁寧
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

序文

1章 競争戦略

どちらから読んでも構わないと思うが、本書では本書と『競争の戦略』の関係性や『競争の戦略』の復習から入る。

具体的には、5フォース3つの基本戦略のおさらいだ。

パートⅠ 競争優位の原理

まず、価値連鎖というコンセプトを導入する。

そして、それをベースに基本戦略の説明が続く。

2章 価値連鎖と競争優位

5フォース、3つの基本戦略など超有名フレームワークを生み出したポーターだが、もうひとつ価値連鎖(Value Chain)を生み出したのもポーターである。

価値連鎖とは、企業が価値を生み出していく過程を体系的に表したものだ。

例えば、製造業であれば製品の製造過程をイメージすればわかりやすいが、価値連鎖にはサービス業も、またバックオフィスのようなところも含まれてくる。

3章 コスト優位のつくり方

まず、3つの基本戦略のうちコストリーダーシップ戦略について分析する。

価値連鎖を用いると、コストがどう生まれ、どう振る舞い、どうコントロールすればよいかが見えてくるのだ。

4章 差別化の基本的考え方

次に、差別化戦略についての分析だ。

コストリーダーシップ戦略の分析と同様に、価値連鎖を用いることで何が差別化を生み、どう戦略に落とし込んでいけばよいかが見えてくる。

5章 技術と競争優位

今では当たり前かもしれないが、価値連鎖を支えるのは企業が保有する技術だ。

よって企業は技術を戦略的に扱っていかなければならない。これを技術戦略と呼ぶ。

本章では、技術と競争優位の関係について迫る。

6章 競争相手の選び方

『競争の戦略』でいう買い手(供給業者)に対する戦略と同じで、自分に都合のいい競争相手はうまく取り込んでおけという話だ。

個人的には、確かにそうなんだけどジャイアン的思想であまりよく思わなかった。

パートⅡ 業界内部の競争分野をどう決めるか

ここで思い出したかのように「業界」ってなんだっけという話が始まる。

すなわち、これまで「業界」を頼りに話してきたが、はたして競争する領域、分析する範囲としてどう考えていけばよいのか。

個人的には、意義の大きいパートだと感じた。

7章 業界細分化と競争優位

実際、「業界」の範囲は、なにを根拠として決めればよいのか。

それは、マーケティングのSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)のようなプロセスを経て、戦略的観点から決まる。

8章 代替に対する戦略

ある業界、すなわち、ある商品が、別の業界(商品)に取って代わられてしまうことは珍しくない。

本章では、そのメカニズムを説明している。

パートⅢ 企業戦略と競争優位

部署だったり事業部だったり、その関係性についての分析が始まる。

9章 事業単位間の相互関係

事業それぞれの間には、3つの相互関係がある。

すなわち、

3つの相互関係をあげ、その重要性を説明している。

  • 有形の相互関係
  • 無形の相互関係
  • 競争業者の相互関係

有形の相互関係とは、実際に有形のものや組織を共通化、共同化している場合。無形の相互関係とは、ノウハウの共有だ。そして、競争業者の相互関係とは多角化企業における相互関係だ。

10章 水平戦略の効用

相互関係がどのように価値連鎖へ影響を与えるかを説明している。

11章 相互関係の活用

では、実際、相互関係を築こうと思ったとき、もちろんメリットだけではなくデメリットも生じる。

相互関係を阻む壁や、そもそもコストが掛かったりする。

それをどう乗り越えていくかが問題だ。

12章 補完製品と競争優位

「レーザーブレード」というビジネスモデルを知っているだろうか?

レーザーブレード、すなわちカミソリの本体を安く売り普及させることで、専用の刃の需要を生み、儲けるという算段だ。

そういったカミソリの本体に対する刃を補完製品と呼び、本章では補完製品をどう考えるかということを説明している。

パートⅣ 攻撃と防衛の競争戦略

いよいよ総集編だ。

業界の未来に対し、企業をどう守り、どう攻めていくのか…

13章 業界シナリオと不確実性下の競争戦略

ここまでの内容を踏まえて、何をベースにどう戦略を立案していけばよいのか。

ありうる業界のシナリオを挙げ、それぞれのシナリオに対して戦略を練ればよいのだが、その緻密さとスマートさがさすがはポーターだ。

14章 防衛戦略

ずばり、どう防衛していくかという話だ。

理想としては、交渉なりなんなり水面下で戦いはすれど、そもそも攻撃されないようにしておくべきなのだ。

しかし、時には実際に攻撃されてしまい、反撃せざるを得ない場合もある。

15章 業界リーダーへの攻撃戦略

続いて、どう攻撃していくかという話だ。

業界のリーダー、すなわち業界1位でない企業は、いつかはリーダー企業へ挑戦し、倒したいと思っている。

その際、気を付けるべきはなんなのかを説明している。

まとめ

率直な感想としては、やはり『競争の戦略』よりも分量が多く、読むのが大変だった

しかし、個人的には『競争の戦略』よりも本書の方がより勉強になった気がする。

というのも『競争の戦略』で扱う業界単位の話は、だいたいの人に取っては話が大きすぎて、それこそ戦略コンサルティングを生業としている人か学者にしかリアリティがないのではないだろうか。

一方で、本書が扱う企業価値の話は、まだパンピーにとって身近に思えた。

例えば、企業価値なんかも自分の会社の各部署を思い浮かべれば何となくでもイメージできるはずだ。

にもかかわらず、『競争の戦略』は読んでいても、本書まで読んでいる人が少ないのは残念なことだ。

ポーター自身も、この2冊を姉妹書と位置付けている。

確かに、2冊揃ってはじめて屈強なポーター理論が完成すると思う。

合わせて1000ページ、とても大変だが、読破した暁には新しい景色が見えると思う。

ぜひ、読んでほしい。

M.E.ポーター『競争の戦略』なぜ古典的名著なのか?実際に読んでみてわかった偉大さ

最も知名度がある超ド級の経営学者といえばマイケル・ポーターだろう。

その名を知らなくても、5フォースコストリーダーシップ差別化戦略バリュー・チェーンという言葉は聞いたことないだろうか?

彼は、史上最年少でハーバード大学の教授となった後、1980年にある1冊の本を書き上げた。

それが経営戦略論のバイブルとして今なお愛読されている『競争の戦略』である。本書では、5フォースを中心にポーターの緻密な理論が展開されている。

競争の戦略

競争の戦略

 

さぁ、読んでみたくなっただろう。しかし、ここに重大な問題がある。

とにもかくにも分厚過ぎる。

決して易しくはない内容が500ページにもわたり、本屋で手に取ってみるとその重さたるや、なかなか持ち歩いたり、電車の中で読む気にはならない。

読書に慣れていない人は、きっと怖気づいてしまうことだろう。

しかし、書かれている内容は素晴らしい。

巷には解説書のような薄っぺらい本が溢れているが、ポーターの良さはその緻密さにあると思う。ぜひ、それを味わってほしい。

そこで、これから読んでみようかと迷っている人の助けとなるべく筆を執った。

すなわち、

  • 誰しも得体のしれないものは怖い。ある程度、内容を知れば、読み始めるハードルも下がるはずだ
  • 読んでいる最中も全体の流れの中で現在地を見失わなければ必ず読み終わることができるはずだ

という考えのもと簡単に内容をまとめてみた。

ぜひ、これを参考に近代の経営戦略論の原点を味わってほしい。

 

ちなみに追い打ちを掛けるようだが、本書には姉妹書『競争優位の戦略』が存在する。

この本もぜひとも読んでほしい本だ。

安心してほしい。こちらの本にも同様の手助けを用意してある。

www.take2biz.com

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  • テーマ:経営戦略
  • 文章量:とても多い
  • 内 容:高度(緻密)
  • 行 間:狭い、とても丁寧
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

パートⅠ競争戦略のための分析技法

パートⅠでは、これから始まる緻密な分析に必要となる基本的なコンセプトの説明から始まる。

1章 業界の構造分析

本書、すなわちポーター理論では、自社が業界の中で自社に有利な位置を陣取ることができれば競合との競争に勝つことができるという考え方がベースになっている。

そのために、まず必要となるのが業界の構造分析だ。

ここで登場するのが、超が付くほど有名な5フォースというフレームワーク。

説明する必要もないかもしれないが、5フォースとは業界に、

  • 買い手の交渉力
  • 供給企業の交渉力
  • 新規参入業者の脅威
  • 代替品の脅威
  • 競争企業間の敵対関係

という5つの競争要因(=5つの力)が存在するという考え方だ。

2章 競争の基本戦略

そのような業界の中で戦っていく際に指針となるのが、3つの基本戦略だ。

すなわち、

  1. コストリーダーシップ
  2. 差別化
  3. 集中

の3つであり、これらのうちどれかを選択することが重要である。あっちもこっちもと二兎を追ってはいけない。そうすると戦略がぼやけてしまうのだ。

ちなみに、このコンセプトについては、姉妹書『競争優位の戦略』の方でより詳細に扱われることになる。

3章 競争業者分析のフレームワーク

さて、ここからが本番で、いよいよポーターの緻密な分析が始まっていく。

競争の戦略というだけあって、まずは競争業者を分析するための切り口を説明している。

4章 マーケット・シグナル

マーケット・シグナルとは、他社の行動を予知する手掛かりとなるものだ。

すなわち、企業が何かを企むと、どうしてもその行動が何らかの形で市場に滲み出てしまうのだ。

これは競争において重要なものとなる。

マーケット・シグナルをキャッチして適切に読み解くことができれば、競争業者が何を企んでいるのか予知できるからだ。

5章 競争行動

競争行動とは、こちらが何らかの戦略を行使したときに、対抗なりなんなり競争相手が示す反応のことだ。

すなわち、戦略を考える際には、相手の競争行動があるところまで考えておかねばならない。

こちらの戦略に対し、競争業者が業界もろとも破滅に追い込むような愚行を取ることが予想される場合、その戦略は使うことができない。

例えば、値切り合戦のような構図になってしまっては業界が疲弊してしまう。

6章 買い手と供給業者に対する戦略

言ってしまえば、自分にとって都合のいい買い手を選んでおこうという内容だ。

立場を逆にすれば、供給業者に対する戦略となる。

7章 業界内部の構造分析

ここまでは業界単位で話を進めてきたが、本章では業界内部を分析する。

そのために戦略グループというものを定義する。これは、すなわち業界内部で戦略の方向性によって分類したグループである。

この戦略グループを定義することにより、これまで業界単位で行ってきたようなのと似た分析が業界内部でできるのだ。

ここで少し考察を入れるとすると、この業界単位での分析を業界内部に適用する入れ子メソッドを導入することにより、より細かい単位での分析が帰納的に進めていけそうだ。さすがはポーター、恐ろしい…

8章 業界の進展・変化

ここまでの分析では時間軸を意識してこなかったが、もちろん業界はどんどん変わっていくものだ。

これも分析に入れねばならない。

しかし、業界の変化を予想するのはなかなか困難だ。

よって、その変化自体ではなく、変化を引き起こす要因に注目しておけば、なんとか対応できそうだ。

パートⅡ 業界環境のタイプ別競争戦略

ここからは業界の状況を絞って、より具体的な話に入る。

内容は章のタイトルの通りなので割愛する。

  • 9章 多数乱戦業界の競争戦略
  • 10章 先端業界の競争戦略
  • 11章 成熟期へ移行する業界の競争戦略
  • 12章 衰退業界の競争戦略
  • 13章 グローバル業界の競争戦略

パートⅢ 戦略デシジョンのタイプ

パートⅢでは、決めなきゃなんねぇって場面を3つほど取り上げている。

14章 垂直統合の戦略的分析

つくるか、買うかをどう決めるか。

間接的な影響も含めて判断すべきという話。

15章 キャパシティ拡大戦略

工場とか設備を大きくしてよいか。

当然、需要があるのは必須だが調子にのると業界全体が設備過剰になってしまう。

16章 新事業への参入戦略

吸収合併または社内での新規事業としてどう参入していくか。

また、参入の成果は基本的な市場要因で決まってしまうと説明している。

まとめ

実際に読んでみて、壮大な本だった。

まず驚いたのは、あれだけ有名で、かつ本書のベースとなる5フォースの説明がたった1章で終わってしまったことだ。

あくまで5フォースという枠は業界構造を捉えるためのフレームワークに過ぎず、重要なのはそれを用いた緻密な分析にある。

いやはや、ここまで緻密な分析とは思っていなかった

非常に丁寧な展開ではあるのだが、読み進めるごとに分析すべきことが指数的に増えていっており、なぜ戦略コンサルタントが職業になるのか実感できた。

同時にそれが本書を読む醍醐味であり、本書が古典的名著であり、その理論が多くの影響を与えていることも理解できた。

冒頭にも書いたが、確かに分量が多いので読むのは大変である。

しかし、学ぶことも多く、ぜひとも時間を割いて読み込むべき本である