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フィリップ・コトラー『コトラーのマーケティング4.0』流石はコトラー、デジタル世代も頷ける納得のコンセプト

マーケティングの大家コトラーは、かつてマーケティングの辞典とでも言うべき大著『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』を出版した。

さらに2010年、新たなコンセプトを引っ提げて『コトラーのマーケティング3.0』を出版した。

そして2016年、「マーケティング」は早くもバージョンを上げることになった。

その名も『コトラーのマーケティング4.0』である。

副題には、スマートフォン時代とある通り、マーケティング3.0の精神的なコンセプトとは打って変わって、マーケティング4.0ではデジタル化したこの時代に対するアプローチとなる。

『マーケティング3.0』に引き続き、本書も実際に読んでみて、内容をまとめたので、これから読もうかと考えている人は参考にしてほしい。

 

『マーケティング3.0』についてのまとめはこちらにある。どちらから読んでもいいので比較しながら決めてほしい。

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指標

  • テーマ:マーケティング
  • 文章量:少なめ
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★☆

内容

はじめに――『マーケティング3.0』から『マーケティング4.0』へ

第1部 マーケティングを形づくる基本的なトレンド

第1章 つながっている顧客へのパワーシフト

かつてのG7は、インド、インドネシア、中国などを巻き込まざるを得ず、今やG20である。

そして現在、世界で最も人口の多い国は人口16億5千万人の「フェイスブック合衆国」である。

これは、すなわち縦の権力構造が弱まり、横の力が存在感を増してきたことを意味する。

今やイノベーションを生み出すのも、企業や国の内部でトップダウンにというよりも、それらの垣根を超え、協働によるものが多くなっているのだ。

マーケティングにおいてもソーシャル・メディアの台頭により顧客はつながり、企業からのトップダウンな広告よりも、口コミの方が力を持ってきている。

第2章 つながっている顧客に対するマーケティングのパラドックス

デジタル・ネイティブに代表されるような新しいタイプの顧客は、何でもモバイルで、生活のペースが速く、きわめて接続性が高いという特徴がある。

この接続性は、マーケティングを行う上で3つのパラドックスを生む。

  1. オンライン交流 対 オフライン交流

一見、オンラインとオフラインの交流はカニバるように見える。

しかし、将来的にはオンラインとオフラインの要素は統合され、総合的な顧客経験をつくり上げることが重要になると説明している。

  1. 情報を持っている顧客 対 注意力散漫な顧客

今日の顧客は、多くの情報を持ち、知識のレベルは上がっているにもかかわらず、何を買いたいかを自分でコントロールしない。

こうなると、まず「ワオ!」と関心を引くこと、そして顧客コミュニティの中でブランドに関するカンバセーションを活性化させる、すなわちバズらせることが大切だ。

  1. 批判的な意見 対 好意的な意見

接続性のもとでは、好意的なものもあれど批判的な口コミの影響は大きい。

この場合、批判的な意見をトリガーに、ブランド愛好家が擁護の声をあげるという構図を目指せばよい。

第3章 影響力のあるデジタル・サブカルチャー

デジタル世界では、ブランドに関する推奨を求めたり、与えたりする傾向が強いセグメントに力を集中すべきである。

すなわち、

  • 若者
  • 女性
  • ネティズン(Net + Citizen:ネットユーザー)

だ。

第4章 デジタル経済におけるマーケティング4.0

さて、以上の前置きがあり、いよいよマーケティング4.0が定義されることになる。

マーケティング4.0とは、

企業と顧客のオンライン交流とオフライン交流を一体化させるマーケティング・アプローチ

だ。

オンラインとオフラインの一体化を謳っていることからもわかるように、マーケティング4.0は、伝統的なマーケティングを否定するものではない。

マーケティング4.0では、顧客の推奨を勝ち取るためにデジタル・マーケティングと伝統的マーケティングは共存すべきとしている。

第2部 デジタル経済におけるマーケティングの新しいフレームワーク

第5章 新しいカスタマー・ジャーニー

接続性云々の前の時代には、AIDA、4Aといったカスタマー・ジャーニーのフレームワークが存在した。

しかし、接続性の時代が到来した今、カスタマー・ジャーニーは、

  1. 認知(aware)
  2. 訴求(appeal)
  3. 調査(ask)
  4. 行動(act)
  5. 推奨(advocate)

5Aに修正されるべきであり、マーケティング4.0の究極の目的は顧客を「認知」から「推奨」まで到達させることとなる。

そして、そのために利用できる影響力の主な源は3つある。

  • 自分自身の影響(Own)
  • 他社の影響(Others')
  • 外的影響(Outer)

本書では、これらをまとめてOゾーン(O_{3})と呼ぶ。

余談になるが、この呼び方は化学物質のオゾン(ozone、O_{3})に掛けていると思うのだが、本書では一切触れられていなかった。

第6章 マーケティングの生産性の測定指標

5Aフレームワークに沿って考えると、マーケティングの生産性の測定指標も変わってくる。

測定する価値が出てくるのは、

購買行動率 = \dfrac{購買行動をとる人の数}{認知している人の数}

ブランド推奨率 = \dfrac{自発的に推奨する人の数}{認知している人の数}

の2つだ。

詳細は本書を読んでほしいが、この2つの指標を用いることで、カスタマー・ジャーニーの適切な段階で、

  1. 誘引力を高める
  2. 好奇心を最適化する
  3. コミットメントを強化する

などのマーケティング戦略・戦術を打つことができる。

すなわち、顧客が次の段階に進むのを妨げる隠れた問題の解決を目指すことができるようになるのだ。

第7章 産業類型とベスト・プラクティス

5Aフレームワークを分析し、各段階のコンバージョン率を評価すると4つの主なパターンが浮かび上がってくる。

  1. ドアノブ型
  2. 金魚型
  3. トランペット型
  4. 漏斗型

これらのパターンは、それぞれ異なる産業類型を代表しており、それぞれが特定の顧客行動モデルと固有の課題を有している。

第3部 デジタル経済におけるマーケティングの戦術的応用

第8章 ブランドの誘引力を高める人間中心のマーケティング

ブランドの誘因力を高めるためには重要なことが2つある。

1つは、デジタル人類学によって顧客の人間としての側面を理解することだ。

具体的には、

  • ソーシャル・リスニング
  • ネトノグラフィー
  • 共感的リサーチ

などの手法がある。

そして、2つめは、ブランド自身が顧客を引き付けることができる人間的側面を有し、それを公にすることだ。

ブランドが備えるべき人間特性は6つある。

  1. 身体的魅力
  2. 知性
  3. 社交性
  4. 感情性
  5. パーソナビリティ
  6. 道徳性
第9章 ブランドへの好奇心をかき立てるコンテンツ・マーケティング

コンテンツ・マーケティングとは、

コンテンツに関するカンバセーションを生み出すために、明確に限定されたオーディエンス・グループにとって興味があり、適切で、役に立つコンテンツを、制作、編集、配信、拡散することをともなうマーケティング手法

である。

コンテンツ・マーケティングは、8つの段階を持つ。

  1. 目標設定
  2. オーディエンス・マッピング
  3. コンテンツの構想とプランニング
  4. コンテンツの制作
  5. コンテンツの配信
  6. コンテンツの拡散
  7. コンテンツ・マーケティングの評価
  8. コンテンツ・マーケティングの改善
第10章 ブランド・コミットメントを生み出すオムニチャネル・マーケティング

オムニチャネル・マーケティングとは、ショールーミングウェブルーミングに代表されるように、

さまざまなチャネルを統合して、シームレスで一貫性のある顧客体験を生み出す手法である

オムニチャネル・マーケティングの急成長は最近のトレンドになっていて、

  1. ナウ・エコノミーにおけるモバイル・コマースへの集中
  2. オフライン・チャネルにおけるウェブルーミング
  3. オンライン・チャネルにおけるショールーミング

などがある。

そして、このような優れたオムニチャネル・マーケティング戦略を構築するためには以下の手順を踏む必要がある。

  1. カスタマー・ジャーニー全体に、考えられるすべてのタッチポイントとチャネルをマッピングする
  2. 最も重要なタッチポイントとチャネルを特定する
  3. 最も重要なタッチポイントとチャネルを改善、統合する
第11章 ブランド・アフィニティを築くためのエンゲージメント・マーケティング

初回購入者を忠実な推奨者にコンバートするためには、一連の顧客エンゲージメント活動が必要になる。

デジタル時代にエンゲージメントを強化できる一般的な手法は、以下の3つだ。

  • モバイル・アプリでデジタル経験を高める
  • ソーシャルCRMでソリューションを提供する
  • ゲーミフィケーションで望ましい行動を促進する

まとめ

デジタル時代のマーケティングが程よくまとまっており、読みやすい本だった。

というのも自分自身、デジタル・ネイティブとイミグラントのはざま世代だが、例えば、オンラインとオフラインの話は、リアル店舗で品定めしてからネットで注文するなど身に覚えのある話だ。

また、5Aというカスタマー・ジャーニーについても、確かに最近はテレビのCMよりもSNS等から情報を仕入れ、口コミを調べてからモノを買う。

デジタル時代の顧客特性の話は、身をもってなるほどと思えた。

さらに、そうした時代にマーケターが行うべきは顧客自身に商品を推奨させることだという結論も納得できる。

事実、最近の企業や広告を振り返ると、バズらせようとしているんだろうなぁと思える動きも多い。

話が逸れるが大手広告代理店の電通は、5Aとよく似たAISASというフレームワークを提唱していたりする。

少し物足りないとすれば、実際の手法については説明が少なく紹介程度のものが多かった。

しかし、だからこそ分量も少なく、すっきりと読めるのだろう。

デジタル時代のマーケティングについて概観するには、良い本だ。

フィリップ・コトラー『コトラーのマーケティング3.0』大家コトラーが描く4PやSTPの先にあるマーケティングコンセプトとは?

マーケティングといえばコトラー、コトラーといえばマーケティングだ。

マーケティングを勉強しようとした人なら誰しも、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』に出会い、その分厚さに辟易としたはずだ。

言わずもがな、私自身も『マーケティング・マネジメント』に出会い、購入し、無事に本棚の肥やしになっている。

何度か読もうと挑戦しているのだが…

そんなマーケティングの大家コトラーが、2010年に新しい本を出したというではないか。

その名も『コトラーのマーケティング3.0』だ。

『マーケティング・マネジメント』、つまりはマーケティング2.0以前を読み終わっていないので、いささか気が引けるが、さっそく読んでみることにした。

実際に読んでみて、内容をまとめたので、これから読もうかと考えている人は参考にしてほしい。

 

ちなみに、既に『コトラーのマーケティング4.0』が出ているが、本書の新版というわけではない。

マーケティング4.0は、3.0に続く新たなコンセプトとなるので異なるものだ。

どちらから読んでも問題ないので、『マーケティング4.0』のまとめも参考にしてほしい。

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  • テーマ:マーケティング
  • 文章量:少なめ
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★☆☆☆

内容

はじめに

第1部 トレンド

第1章 マーケティング3.0へようこそ

まず、本書の題名でもあるマーケティング3.0に至るまでを振り返っている。

マーケティング1.0とは、

工場から生み出される製品をすべての潜在的購買者に売り込むこと

で、マーケティング2.0とは、

市場をセグメント化し、特定の標的市場に向けて他社より優れた製品を開発しなければならない

とする消費者志向の段階の見方のことだ。

そして、マーケティング3.0とは、

人びとを単に消費者とみなすのではなく、マインドとハートを精神を持つ全人類的存在ととらえて彼らに働きかける

こととしている。

これは、消費者の満足を狙うところはマーケティング2.0と同じだが、

より大きなミッションやビジョンや価値を持ち、世界に貢献することを目指している

では、なぜマーケティング3.0に向かっていかなければならないのか?

それは、そうしなければならないビジネス状況を形づくる3つの重要な力が存在するからだ。

  1. 参加の時代

まず、人びとがニュースや考えや娯楽を消費するだけでなく、それらを創造する参加の時代がやってくる。

こうなると企業は、製品開発やコミュニケーションに消費者を参加させ、協働していくという協働マーケティングを行っていかなければならない。

  1. グローバル化のパラドックスの時代

次に、グローバル化により全世界が明るみに出たことで、逆にローカルな事柄やナショナリズムが際立つというグローバル化のパラドックスの時代がやってくる。

多くの人が不安を感じており、グローバルとローカルの対立する価値を同時に抱いている。

このとき企業には、継続性や繋がりや目的を提供し、文化的課題に取り組んでいるとアピールする文化マーケティングが必要になる。

  1. クリエイティブ社会の時代

最後に、精神的欲求が生存欲求にますます取って代わるクリエイティブ社会の時代だ。

人びとは、

自分たちのニーズを満たす製品やサービスだけでなく、自分たちの精神を感動させる経験やビジネスモデルも求めている

企業には、精神に訴えかけるスピリチュアル・マーケティングが必要になる。

第2章 マーケティング3.0の将来モデル

ニール・ボーデンは、1950年代にマーケティング・ミックスという言葉を生みだした。

ジェローム・マッカーシーは、1960年代に4Pという枠組みを打ち出した。

その後、セグメンテーションターゲティングポジショニングなどの戦略を含む顧客管理の考え方が導入されていった。

そして、これからは以下の3つの事柄が企業が成功する鍵となり、マーケティングの基盤になると説明している。

  1. 4Pは、共創に取って代わられる

これまでは企業が顧客を分析しマーケティング・ミックスを考えるという構図だったものが、

互いに繋がっている企業や消費者、供給業者やチャネル・パートナーが、協働によって製品や経験価値を創造する

ようになるのだ。

  1. STPは、コミュニティ化に取って代わられる

同じように、セグメンテーションというものは、これまでは企業が決めていた。

しかし、テクノロジーにより消費者は、自分たちにとって価値のある集まりとしてコミュニティをつくるようになった。

企業は、このコミュニティの価値を壊すことなく、逆らうことなく、コミュニティのメンバーに有用な形で活動に参加していかなければならない。

  1. ブランド構築は、キャラクターの構築に取って代わられる

これからは、ブランドはより色濃いDNAを持たなければならない。

すなわち、企業やブランドは一貫した主張を持ち、そのキャラに矛盾のない形で経験価値を提供していかなければならないのだ。

 

スティーブン・コビーによれば人間は基本的に、

  • 肉体
  • 独自の思考や分析を行えるマインド
  • 感情を感じることのできるハート
  • その人がその人であることの核となる精神

から構成されている。

これまでマーケティングは、人間のマインド、そしてハートへと訴えかけてきた。

これから、すなわちマーケティン3.0では、人間の精神に訴えかける段階へと進化しなければならない。

そこで、ブランドとポジショニングと差別化をうまくバランスさせるために3iというコンセプトを導入する。

  • brand identity
  • brand integrity
  • brand image

この3iというフレームワーク、なかなかにわかりにくいので、ここでは詳細は省く。

以下のサイト等を参考にしてほしい。

「3i」モデルと2つの軸から考えるブランドの構成要素 | KOBIT

第2部 戦略

第2部では各ステークホルダー、すなわち、

  • 消費者
  • 社員
  • チャネル・パートナー
  • 株主

に対して、どのようなマーケティングを行っていけばよいのかを説明している。

内容は章のタイトルの通りなので割愛する。

  • 第3章 消費者に対するミッションのマーケティング
  • 第4章 社員に対する価値のマーケティング
  • 第5章 チャネル・パートナーに対する価値のマーケティング
  • 第6章 株主に対するビジョンのマーケティング

第3部 応用

(以下、省略)

  • 第7章 社会文化的変化の創出
  • 第8章 新興市場における起業家の創造
  • 第9章 環境の持続可能性に対する取り組み
  • 第10章 まとめ

まとめ

推薦度を星2つにしたように、残念ながらしっくりこなかった。理由は2つある。

まず、肝心の3iモデルの説明が足りない。よくわからない。

マーケティング3.0では、ハートに加えて精神に訴えかけるべしとしているが、そもそもハートと精神はどう違うのか、なんとなく違いはわかるが、なんとなくでしかわからない。

そして、3iモデルについてもフレームワークっぽくはなっているが、なんとなく三角形に並べているようにしか見えなかった。

読んだ後にググってみてようやく理解できるレベルで、本書の中だけで理解するのは難しいのではないだろうか?

次に、本書のテーマ、ないし全体の結論が、日本にはあまりなじみのない社会貢献であり、実感が湧かなかった。

例えば、諸外国では、セレブが奉仕活動に参加したり寄付をしたり、そういった社会問題に言及することがステータスだと聞く。大学も卒業生からの寄付による部分が大きいと聞く。

結局、企業もそこを目指すべきだというのが本書のテーマだと読み取ったのだが、いかんせん日本では馴染みのない文化であり、自分自身まだその域まで達していない

だからこそ、一読の価値ありと言えなくもないが、個人的には薦めるなら本書の続編『コトラーのマーケティング4.0』を推したい。

クレイトン・クリステンセン『ジョブ理論』結局クリステンセンであっても、この結論にたどり着くのか?

2020年1月、イノベーションの大家クリステンセンが亡くなってしまった…

 

クリステンセンは、1997年に『イノベーションのジレンマ』を出版した。

『イノベーションのジレンマ』では、破壊的イノベーションという概念を用いて、なぜ大企業がイノベーションのジレンマに陥るのか、そのメカニズムをわかりやすく説明している。

これはこれで興味深いことなのだが、一方で、どうすれば破壊的イノベーションを起こせるかという問いには答えていない。

そう、もう、おわかりだろう。

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』では、どうすれば破壊的イノベーションを起こせるかという問いに、ひとつの答えを与えている。

さぁ、読んでみたくなっただろう。

いつものごとく、簡単に内容をまとめたので、読もうかどうか考える際、そして読んでいる最中に参考にしてほしい。

長年、イノベーションを研究してきたクリステンセンが出した答えとはいかに?

ぜひ、その理論を堪能してほしい。

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  • テーマ:イノベーション
  • 文章量:少なめ
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★☆

内容

序章 この本を「雇用」する理由

第1部 ジョブ理論の概要

かつてクリステンセンは、破壊的イノベーション理論によって、業界に君臨する大企業が、なぜぽっと出の企業に打ち負かされるのかを解き明かした。

イノベーションのジレンマを読んでいない人がいれば、ぜひとも読んでほしいと思う。とてもおもしろい本だ。

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しかし、破壊的イノベーション理論は、その現象のメカニズムを説明すれど、どうやればイノベーションを起こせるかという問いに対しては答えていない。

第1章 ミルクシェイクのジレンマ

まず、

「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか」

という話から始まる。

もともとミルクシェイクを買っていくマス層に対し、値段や量、味を変えるような試行錯誤をしていたが、何も変わらなかった。

そこで調査チームは、

「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを"雇用"させたのか」

とアプローチを変えてみると…


この、顧客がプロダクト・サービスを利用するとき、そこには何か顧客にとって重要なジョブがあり、それを解決するためにプロダクトやサービスを雇用するのだ、という考え方が本書の肝となるる考え方「片付けるべきジョブ」理論だ。

第2章 プロダクトではなく、プログレス

本書ではジョブを、

"ある特定の状況で人が遂げようとする進歩"

と定義している。

そして、この定義には「状況」が含まれることを念押ししている。

すなわち、ジョブとは状況、文脈、コンテクストを特定して初めて定義することができ、よってジョブを理解するためにはそれらを理解する必要があるのだ。

その具体的な方法として、

  1. その人がなし遂げようとしている進歩は何か。
  2. 苦心している状況は何か。
  3. 進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。
  4. 不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。
  5. その人にとって、よりよい解決策となる基準、また、そのためにトレードオフにしてよいものは何か。

を考えなくてはならない。

第3章 埋もれているジョブ

以上を踏まえ、サザンニューハンプシャー大学の事例を中心に、ジョブを理解することが、いかに成功へ繋がるかを説明している。

第2部 ジョブ理論の奥行きと可能性

第4章 ジョブ・ハンティング

ジョブの見つけ方については2章で簡単に触れたが、ここではより詳細に説明している。

具体的には、

  1. 生活に身近なジョブを探す
  2. 無消費と競争する
  3. 間に合わせの対処策
  4. できれば避けたいこと
  5. 意外な使われ方

という方法だ。

そして最後に「感情面の配慮」と銘打って、再度ジョブの文脈を理解する重要性を説いている。

第5章 顧客が言わないことを聞き取る

実際、顧客の「片づけるべきジョブ」を理解することはとても難しい。

例えば、

消費者が自分の望みをつねに明確に説明できるとは限らない。

環境にいいものを選ぶと言いつつも、その利便性ゆえに使い捨てのものを使うひとは少なくないだろう。

では、客観的なデータで判断すればいいのか?

否、それも偏っているという。

なぜなら、データというのは「買ったとき」のことを語れど、「使うとき」=ジョブについては語らないからだ。

第6章 レジュメを書く

ここに来て、

ジョブの特定は最初のステップにすぎないこと

が判明する。

ジョブを中心にしたイノベーションは、

  1. ジョブの特定
  2. 求められる体験の構築
  3. ジョブ中心の統合

という3ステップで構成されるのだ。

詳細は、第3部に続く。

第3部「片づけるべきジョブ」の組織

第7章 ジョブ中心の統合

なんの統合かというと社内プロセスの統合だ。

ジョブを中心に考えると、サービサーの組織体系だってジョブの解決に向いた形に統合されるべきだし、業績の評価基準も顧客ベネフィットによるものとなるべきなのだ。

第8章 ジョブから目を離さない

よくある話だが、プロダクトが実際に生産され、販売されていくと、なぜ顧客がそれを雇用するのかという最も重要な初心を忘れがちという警鐘だ。

それは企業が生成したデータを見るにあたり、

  • 能動的データと受動的データの誤謬
  • 見かけ上の成長の誤謬
  • 確証データの誤謬

という3つのデータの読み間違え(誤謬)にハマるからだ。

第9章 ジョブを中心とした組織

「片づけるべきジョブ」を理解し、そこにフォーカスすることは、企業にとってもメリットがある。

すなわち、

  • 意思決定の分散化
  • 資源の最適化
  • 意欲の向上
  • 適切な測定能力

に繋がるのだ。

そして、ジョブを中心に据えることは、企業全体がそこへ向かうことを意味する。

これはどの企業も掲げているフワフワした企業理念とは異なるもので、明確に目指すことのできる"北極星"と言える。

第10章 ジョブ理論のこれから

最後にジョブ理論の狙いと、理論としての扱い方を説明して終わる。

まとめ

偉大なるクリステンセンだからこそ、この本の評価は分かれると思った。

破壊的イノベーション理論の生みの親であるあのクリステンセンがイノベーションの生み出し方を考えたというわりには、蓋を開けてみれば、真新しさは感じなかった。

正直、ジョブはレビット博士のドリル話だし、文脈が効いてくるというのもUX、CXで出てくる。

それに「で、イノベーションはどうやるの?」という問いの答えが「状況を読み解き顧客が真にやろうとしていることを見抜くべし」では、あまりにも陳腐だ。

一方で、クリステンセンも多くの研究の結果、昨今のコンセプトと同じようなところに落ち着いたと捉えることもできる。

UX、CXの本はテクニックの解説のような本が多いイメージだが、この本は事例も多く、ゆっくりと考え方を頭に入れることができる。

そのあたりに詳しい人には退屈かもしれないが、初学者や改めて腹落ちさせたい人にはとてもいい本だと思う。

藤本隆宏『生産マネジメント入門〈2〉生産資源・技術管理編』後半戦、生産プロセスに必要なインプットとは?

第Ⅰ巻では、QCD+Fというフレームワークを中心に生産システムとしての製造業のアウトプット面について取り扱っていた。

さて、第Ⅱ巻『生産マネジメント入門〈2〉生産資源・技術管理編』では、そのインプット面として経営資源の管理や製品開発について取り扱う。

第Ⅱ巻は、第Ⅰ巻と比較してもより地味な内容かもしれない…

例えば、「製品開発」については、経営企画やマーケが扱うような話ではなく、メーカーの開発部門のような話だ。

いつものごとく、内容をまとめたので読もうかどうか考える際には参考にしてほしい。

生産マネジメント入門〈2〉生産資源・技術管理編 (マネジメント・テキスト)

生産マネジメント入門〈2〉生産資源・技術管理編 (マネジメント・テキスト)

 

 

1巻『生産マネジメント入門〈1〉生産システム編』についてはこちら。

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  • 文章量:普通
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★☆☆

内容

第3部 経営資源の管理・改善

本書の前半は、経営資源について説明している。

第10章 人事・労務管理

経営資源の1つめとして、まずは人の話だ。

大きく分けて3つの話題、

  • 労使関係
  • 人材開発と雇用管理
  • 作業設計

について説明している。

前者2つは、一般的な組織論で語られるような話が多かった。

しかし、作業設計については、製造業に特有のことではないだろうか。少し言葉は悪いが、人も歯車の1つとしてうまく動くように配置し、指示を出し、メンテナンスをしていかなければならないのだ。

第11章 設備管理と生産技術

次は機械や工具など、設備についてだ。

基本的には前章の人事・労務管理と同じ流れだ。どんな設備をどのように手に入れ、どう管理していくのか。

しかし、人は採用後どんどん育っていくのに対し、設備は購入時点でできることが決まっている。

これは、人事・労務管理と比べて「どんな設備」に対する比重が大きいことを意味する。

そして、どんな設備を使うかという話は、工程をどこまで自動化するのかという話に繋がる。

本書では自動化(automation)を、

「人間の活動や作業を機械や装置で置き換えて、さらにそれを人間の操縦なしで動けるようにすること」

と定義している。

自動化の種類の代表例として、

  • Numerical Control
  • Flexible Manufacturing System
  • Computer Integrated Manufacturing

等を紹介している。

第12章 購買管理とサプライヤー・システム

最後に購買管理の話だ。

材料などを購入する際に、

  • 集中部署でやるのか分散させるのか
  • 内製するのか外製するのか(内外製区分の決定)
  • どちらが設計をするのか(承認図方式/貸与図方式)

等について説明している。

第4部 製品開発の管理と能力構築

後半は、製品開発についてだ。

第13章 製品開発の基礎:プロセス・組織・パフォーマンス

まずイントロダクションとして、プロセス、組織、パフォーマンスについて説明している。

例えば製品開発のプロセスには、

  • コンセプト作成
  • 製品基本計画
  • 製品エンジニアリング
  • 工程エンジニアリング

がある。製品を考えて終わりでなく、どうつくるか(工程エンジニアリング)まで入っているところが製造業らしい。

ここから3章を費やして開発パフォーマンスについての説明が始まる。

第14章 開発期間とその短縮

まず、開発期間についてだ。

前半は、クリティカルパスなど開発期間の捉え方を説明している。

後半は開発期間を短縮する方法として、

  • 個々の活動やタスクの期間短縮(圧縮・モード切替)
  • 複数のタスクの並行化(オーバーラップ・分割)
  • 繰り返し回数の削減(反復削減・フロントローディング)

について説明している。

第15章 開発コスト・開発生産性とその向上

次に開発コストについてだが、ここまでくると既存の話でカバーできてしまうらしい。本章は、わずか15ページで終わる。

第16章 総合商品力と開発の組織・プロセス

最後に、どんな組織でどう製品開発を行い、どう総合商品力に繋げていくかだ。

ただし、本書はマーケティングやイノベーションの本ではない。よって、シュンペーターの名やテクノロジー・プッシュ/マーケット・プルの話は出てくるが話は軽い。

どちらかといえば、組織的にどう製品開発を進めていくか、すなわち製品開発プロジェクトのマネジメントについてがメインだ。

例えば、重量級プロダクトマネージャー組織というものが出てくる。やはり、製品を創り出す以上、合議的よりも誰かしらのセンスを軸とした方がいいのだろうか。

第17章 研究開発戦略

少し話が変わり、研究開発(R&D)について説明している。

第17章 補論 ◎技術系の人事管理

(省略)

第18章 まとめ:戦略的もの造り経営を目指して

最後にトヨタを例にして簡単なまとめをしている。

結局、トヨタ(日本の製造業)の強みは、トップダウンの管理ではなくボトムアップの改善の積み重ねにあるという結論だ。

まとめ

こう言うのは気が引けるが、Ⅰ巻と比べるとおもしろくなかった。残念だ。

というのも、本書が対象とする製品開発とは、いかにうまく組織的な開発を進めていくかであって、顧客に寄り添って魅力的な製品を開発するという視点はない

もしかしたら、本書で一貫して取り扱ってきた自動車業界では、真新しい製品で他社を出し抜くというより、成熟した業界として効率よく持続的イノベーションを続けていくことが勝負の鍵なのかもしれない。

もちろん、それは理解できるが、ワクワクするようなものではなかった。

やはり、どうしてもマーケティングやイノベーションの方がおもしろそうである。

ただ、生産マネジメントの教科書としては優秀だ

トヨタに代表される日本の製造業、およびその強みを理解しておくという意味では読んでおいて損はないだろう。

藤本隆宏『生産マネジメント入門〈1〉生産システム編』戦略?マーケ?いやいや実際に企業を支えているのは現場のQCDだ

QCDというフレームワークをご存じだろうか。

ビジネスマンであれば、研修や上司からQCDを意識しろなんて言われた経験があるかもしれない。

QCDとは、品質、コスト、納期の頭文字で、仕事でもなんでもアウトプットの際に気を付けるべきこととして扱われている。

しかし、このQCDというやつ、その原点から理解している人はどれくらいいるのだろうか。

実は、QCDというフレームワークは、ゴリゴリの製造業に端を発し、要素ごとに様々な戦術が編み出されている。

そんな、製造業を中心にQCDの奥深さを解説したのが『生産マネジメント入門〈1〉生産システム編』だ。

生産マネジメント入門〈1〉生産システム編 (マネジメント・テキスト)

生産マネジメント入門〈1〉生産システム編 (マネジメント・テキスト)

 

え、私は製造業ではないので関係ない?

いやいや、そんなことはない。いつものごとく、内容を簡単にまとめたので見てほしい。

確かに本書では、具体的なイメージとして製造業を扱っていくが、開発から生産までを広義の情報の転写と捉え、そのプロセスを抽象的に扱おうと試みている。

これにより、例えサービス業であっても、企業内部の価値連鎖をどう管理し、どう改善していくかという意味で、本書は役に立つはずだ。

さぁ、読んでみたくなっただろう。

戦略やマーケティングと比べて、確かに泥臭い話ではあるが、だからこそリアリティをもって楽しむことができるだろう。

ぜひ、読んでほしい。

 

2巻『生産マネジメント入門〈2〉生産資源・技術管理編』についてはこちら。

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指標

  • テーマ:技術・生産管理/オペレーション
  • 文章量:普通
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

本書の位置づけは、

「文系・事務系の人にも理系・技術系の人にも読んでもらいたい技術管理・生産管理の教科書」

としている。

第Ⅰ巻では、生産マネジメントのイントロダクション+生産システムのアウトプット面としての生産工程を扱っている。

第Ⅱ巻では、生産システムのインプット面として経営資源の管理や製品開発を扱っている。

第1部 生産システムの基礎

第1章 はじめに:競争力とシステムの視点

まず、本書の特徴として、

  1. 開発から生産までをトータルシステムとして考える
  2. 広義の情報の側面に着目する
  3. 競争力に焦点を当てる

ということをあげている。

広義の情報の側面とは、ITで扱う電子情報だけではなく、例えば自動車ボディのプレス工程を「人が持つ知識・熟練、紙上の設計、プレス機の仕様」から「鋼の塊」への情報の転写と考えるということだ。

このように抽象的に考えることで、トータルシステムとして考えることができるというわけだ。

第2章 開発と生産のプロセス分析

とにもかくにも製造企業を分析する際にはプロセス分析が必要になる。

さらに、第1章の方針に従い広義の情報のプロセスとして捉えると製品設計と工程設計は対応させることができると説明している。

簡単に言うと、設計上ネジを3つ使うことになっているのであれば、当然ネジを止める工程が3つあるということだ。

第3章 製品と工程の歴史分析:「大量生産方式」とは何であったか

製品・工程ライフサイクルの考え方を軸に、

  • アメリカ的製造システムからの大量生産方式
  • テイラー主義
  • 日本型=トヨタ的生産システム

を説明している。歴史の話だ。

第2部 競争力ファクターの管理

ここからは競争力について具体的な話に入る。

第4章 競争力とその構成要素

競争力には、

  • 情報すなわち製品を受け取る側で把握できる表層の競争力
  • 情報を発信すなわち開発・生産を行う企業側で把握できる深層の競争力

があり、本書では後者を扱う。

前者は、いわゆる4P(Product, Price, Promotion, Place)で構成されるものだ。

そして後者はQCDF、

  • Quality
  • Cost
  • Delivery
  • Flexibility

で構成される。

第5章 コスト・生産性の管理と改善

まず、QCDFのC、すなわちコストについてだ。

現状を把握するための原価管理の諸手法の紹介から始まり、その上で生産性が高いのか低いのか判断を下すための生産性の定義について説明している。

また、生産性のダイナミックな変化という意味で学習効果にも触れる。

後半は、生産性を高めていくための活動について、IEやJIT方式についてだ。

第6章 納期と工程管理

次にD、納期だ。

まず、生産には大きく分けて見込み生産と受注生産があることを説明している。

その上で、前半は生産計画や生産統制についてだ。

後半は、生産期間をどう短縮していくかという話になる。これはすなわち、価値を吸収していない時間=在庫の管理を意味する。

第7章 品質とその管理・改善

そしてQ、品質の話に入る。

本章では、開発品質ではなく製造品質に注目する。

前半は、統計的品質管理の話だ。これは工程内不良率を所与としていかに検査を最適化するかという話で、例えば抜き取り検査とすべきか全数検査とすべきか等だ。

後半は、そもそもの工程内不良率そのものを低減していく活動として品質作り込みやTQC(Tortal Quality Control)について説明している。

第8章 フレキシビリティ

最後はF、フレキシビリティすなわち柔軟性だ。

今さらだがよく聞くのは、Fがない「QCD」ではないだろうか。

QCDは、それ自体が特定のレベルに達することで顧客の満足に繋がる。

だが、フレキシビリティとは、そういったQCDのレベルが環境の変化や多様性に対し影響を受けないという能力であり、その意味で顧客満足への貢献は間接的だ。

しかし、競争力へ貢献していることには変わりない。少し質は異なるがQCDの列に加える。

フレキシビリティは大きく分けて、

  • 部品のフレキシビリティ
  • 工程のフレキシビリティ

がある。

第9章 生産戦略

第1巻のまとめだ。

前半は、経営戦略との絡みについて説明している。例えば、生産戦略は、

  • 企業戦略
  • 事業戦略
  • 機能戦略

のうち、もちろん機能戦略に分類される。

後半は、これまでのQCDF個々の話を踏まえたうえで、全体として生産能力をどの程度どのように用意すべきかについて説明している。

まとめ

私自身も製造業ではないので、どうなのかと思っていたが、意外とおもしろかった。

経営戦略の本は王道としてのおもしろさがあるが、いかんせんほとんどの人にとってはリアリティがない。

しかし、本書は現場のオペレーション、現場のマネジメントに関する本ということで、読んでいる最中に自分の会社だったらどうなのだろうと身近な景色が思い浮かんだ。

確かに具体的な話は、すべて製造業となるので、直接役に立つような話は多くないだろうが、もう少し抽象的な意味での社内のプロセスの扱い方としては役に立ちそうな話ばかりだった。

また、製造業でない人が製造業について勉強するためには、分量、テーマ共にバランスの良い教科書だ

2巻が楽しみであると共に、小売・サービス業に関しても同様の話があるのだろうかと気になった。

クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』イノベーションについて語るならこの本を読まねば始まらない

時たま、新技術や新製品の登場により世界は大きく変わる。

例えば、iPhoneに代表されるスマートフォンの登場で人々の生活は大きく変わった。

これは、すなわちイノベーションだ。

そして、時としてイノベーションは、その新技術により新興企業が既存の大企業を打ち破るのを助ける。

リソースも潤沢にあり立場も強いはずの大企業が、なぜぽっと出の企業に負けてしまうのか?

1997年、クリステンセンは、この現象をイノベーションのジレンマと名付け、そのメカニズムを解説した本を出版した。

それが『イノベーションのジレンマ』だ。

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

 

さぁ、読んでみたくなっただろう。

いつものごとく、読んでみようかなと思う人に向けて、

  • どんな本なのか概観するため
  • 読んでいる最中に現在地を見失わないようにするため

簡単に内容をまとめた。参考にしてほしい。

本書は、かなりコンパクトで、人によってはサクッと読んでしまうと思うが、内容はまさにイノベーションへの考え方に対するイノベーションで色濃いエッセンスだ。

ぜひ、その「なるほど!」というアハ体験を楽しんでほしい。

指標

  • テーマ:イノベーション
  • 文章量:少なめ
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

第一部 優良企業が失敗する理由

本書は、

「積極的、革新的で顧客の意見に敏感な組織と評価された企業が、戦略的にきわめて重要な技術革新を無視したり、参入が遅れたのはなぜか」

という疑問から始まる。

第一章 なぜ優良企業が失敗するのか-ハードディスク業界に見るその理由-

まず、ディスク・ドライブ業界の歴史を通して優良企業が失敗するメカニズム、すなわち本書のテーマでもある破壊的イノベーションとは何かを説明している。

ちなみにここでいう破壊的イノベーションとは、いわゆる最先端技術の開発だったり、そういった抜本的イノベーションのことではない。これは意外だ。

むしろ破壊的イノベーションは技術的には簡単なことが多いらしい。

メカニズムとして優良企業が頑張れば頑張るほど失敗してしまうのだ。だからジレンマなのだろう。

第二章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激

次に、優良企業がなぜそういったメカニズムにハマってしまうのかという話だ。

既存の研究には、組織やマネジメント、技術的な難しさに焦点を当てているものが多いが、そうではない。

バリュー・ネットワークという概念を導入することで異なるアプローチができる。

第三章 掘削機業界における破壊的イノベーション

以上を踏まえ、今度は掘削機業界の事例を説明している。

第四章 登れるが、降りられない

優良企業が破壊的イノベーションにハマった場合、なぜ取り返せないのか。

そこにはハイエンドには行けるがローエンドには行けないという異方性があるのだ。

第二部 破壊的イノベーションへの対応

第二部では、破壊的イノベーションに遭遇したらどう対応していけばよいかという話が始まる。残念ながら、破壊的イノベーションの起こし方ではない。

第五章 破壊的技術それを求める顧客を持つ組織に任せる

破壊的イノベーションにハマる理由に、当初は既存顧客が破壊的技術に価値を見出さず、よって企業もまじめに取り組まないというメカニズムがある。

破壊的技術が生まれたとき、それはそれを欲しがる人に売り、そのための組織がマネジメントしていくべきなのだ。

第六章 組織の規模を市場の規模に合わせる

当たり前だが生まれたての破壊的技術は未熟であり市場も小さい。

これを主流の組織に放り込んでしまっては、その短期的な目標に晒され弱小組織として揉みくちゃにされてしまう。

主流とは少し距離を置き、適切な規模で進めていくべきだ。

第七章 新しい成長市場を見出す

既存市場に対しては既存の顧客を満足させ売り上げを伸ばす計画を立てればよい。

しかし、新しい市場に対しては不確実性が高く、そもそも知り得ないことが多い。

よって、破壊的技術による新しい市場に対しては、学習し発見するための計画を立てるべきなのだ。

第八章 組織のできること、できないことを評価する方法

組織にできること、できないことは、

  • 資源
  • プロセス
  • 価値基準

の3つによって決まる。

既存の組織が新しい市場で必要となる能力を持っているかは保証できない。

もし、既存の組織が能力不足ならば、破壊的技術に対する能力を持った組織をどうにかしてつくりあげなければならない。

第九章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル

製品のライフサイクルを表す図としてS字のカーブが使われる。

しかし、破壊的イノベーションを知った今、S字カーブだけでは不十分である。

そこには性能の供給過剰というメカニズムが存在するからだ。

第十章 破壊的イノベーションのマネジメント-事例研究-

最後に以上を総合して、電気自動車を破壊的技術と見立てて事例研究を行う。

第十一章 イノベーションのジレンマ-まとめ-

本書のまとめだ。

まとめ

とても、おもしろかった。

もっとユーザーに合わせて、もっと高機能にと追い求めれば追い求めるほどドツボにハマっていくというジレンマ。

決して、破壊的イノベーションという理論が簡単なわけではないが、それを高々300ページで簡潔に説明している。

このメカニズムは、要素要素の分析を総合しても表明されるものではない。

もっと大域的でダイナミックな概念だ。

既存の顧客と付き合い、既存のビジネスの質を上げていくだけでは足りない。

まったく新しい挑戦必要な理由はここにあるのだろう。

誰もが自然に陥ってしまうジレンマだからこそ、本書を読み、気を付けていかなければならないのだろう。

 

ちなみに本書では、破壊的イノベーションというメカニズム、すなわち、破壊的イノベーションの仕組みを解説したのであって、どうすれば破壊的イノベーションを起こせるかを解説したものではない。

それは、後々の著作『イノベーションへの解』、『イノベーションの最終解』、そして『ジョブ理論』で明らかになる。

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ジェイ・B・バーニー『企業戦略論【上】』SWOTから導かれるポジショニング理論に足りない視点とは?

バーニーは、ポーターの対抗馬としてよく名前が挙がる。

ポーターは、業界における企業の位置づけに注目し、企業が自分に有利な形で業界に陣取ることができれば、自然と競争優位に繋がると説いた。

これはポジショニング理論と呼ばれたりする。

一方で、バーニーは企業の内部に注目し、企業が抱えるリソースこそが競争優位の源泉であると説いた。

この考え方をリソース・ベースト・ビューと呼び、実際にはVRIOというフレームワークを導入した。

これを経緯と共に解説したのが本書『企業戦略論【上】』である。

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

 

本書では、実はポジショニング理論とリソース・ベースト・ビューが超有名フレームワークSWOTによって結びつく話もある。

さぁ、読んでみたくなっただろう。

ただし、本書ではかなりのページをポーターの復習に割いている。

私が実際に読んでみて簡単に内容をまとめたので、参考にしながら自分のレベルにあった読み方をしてほしい。

ぜひ、ポーターの理論と比較しながら読んでほしい。

指標

  • テーマ:経営戦略
  • 文章量:普通
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★☆

内容

第1章 戦略とは何か

まず、問題提起として以下3つの企業の事例から始まる。

  • マイクロソフト
  • ディズニー
  • ウォルマート

これらの企業を成功に導いた戦略とはなんだろうか。

1.1 戦略という概念の定義

本書では戦略を、

いかに競争に成功するか、ということに関して一企業が持つ理論

と定義している。

企業が取り得る競争上のポジションとしては、

  • 競争優位
  • 競争均衡
  • 競争劣位

の3つがある。

すなわち、戦略とは競争優位を目指すためのセオリーと言えるのだ。

1.2 戦略と企業ミッション

次に、従来の戦略へのアプローチの説明に入る。

競争セオリーが、その企業のミッションによるものだという説がある。

しかしこれには、

  • 内向きであり、外部環境が考慮されていない
  • 現場のマネージャーには役に立たない

という限界がある。

1.3 創発戦略

一方で創発戦略というものもある。

つまりは場当たり的な考えのことで、時間の経過と共に何となく定まってくるタイプの戦略のことだ。

1.4 戦略と企業経営の環境条件

以上を踏まえて、本書の軸となるフレームワークが導入される。

誰もが知っているであろう、SWOTだ。

曰く、競争セオリーが意図的なのか創発的なのかに限らず、成功したものには以下4つが考慮されているというのだ。

① 企業の内部条件としての強み(Strength)
② 企業の内部条件としての弱み(Weekness)
③ 企業の外部条件としての競争市場における機会(Opportunity)
④ 企業の外部条件としての競争市場における脅威(Threat)

第2章 パフォーマンスとは何か

2.1 戦略の定義とパフォーマンスとの関係

ところで、企業は競争優位を構築してどうしたいのだろうか。

それは競争均衡や劣位にある企業より、よいパフォーマンスをあげたいのだ。

2.2 パフォーマンス概念の定義

パフォーマンスは絶対値でなく、期待値と実際値の関係によって評価される

高品質の材料で最高のアウトプットを出すよりも、低品質の材料でそれなりのアウトプットを出す方がパフォーマンスとしては評価されるのだ。

期待値と実際値のプラスの差を経済的利益、または経済レントという。

2.3 企業パフォーマンスの測定

では実際、企業のパフォーマンスをどう測るかというと、

  • 企業の存続期間
  • ステークホルダー・アプローチ
  • 純粋な会計数値
  • 修正を施した会計数値

による手法を説明している。

第3章 脅威の分析

ここからは、SWOTに沿って話が進む。

3.1 SCPモデル

その前に、少しだけSWOTに至った経緯の話が挟まる。

1930年代、経営学者によって業界構造、企業行動、パフォーマンスの頭文字を取ったSCPモデルというフレームワークが生み出された。

これは、この3つの要素を分析することで、

  • 完全競争
  • 独占的競争
  • 寡占
  • 独占

を特徴づけ、社会的厚生のため各業界を完全競争に持ち込むためのものであった。

しかし、経営者はこれを逆に利用したのである。

 

さてさて、ここからはポーターによる競争の戦略の説明だ。

  • 3.2 脅威を分析する5つの競争要因モデル
  • 3.3 5つの競争要因と業界平均のパフォーマンス
  • 3.4 5つの競争要因モデルの適用事例
  • 3.5 国際環境における脅威

第4章 機会の分析

4.1 業界構造と機会

本節では特定の業界に対し、どのような機会が存在するかを説明している。

前半5つは、ポーターの言及するところだ。

  • 市場分散型業界
  • 新興業界
  • 成熟業界
  • 衰退業界
  • 国際業界

さらに新しく3つの業界について説明している。

  • ネットワーク型業界

いわゆるネットワーク効果が効くような業界の話だ。

  • 超競争業界

ソフトウェアやバイオテクノロジーなど技術革新・創造が目まぐるしい業界の話だ。

  • コアなし業界

ここで言うコアなしとは安定点が存在しないという意味で、あちらが立てばこちらが立たずといった構造を持つ業界の話だ。

 

引き続き、ポーターによる分析の話だ。

  • 4.2 戦略グループによる脅威と機会の分析
  • 4.3 脅威と機会の分析におけるSCPモデルの限界

第5章 企業の強みと弱み―リソース・ベースト・ビュー

ここからが本書の意義だろう。

5.1 企業の強み・弱みに関するこれまでの研究

大きく3つ紹介している。

  • 経営者もしくは組織体制自体が強み・弱みを決めるという伝統的研究
  • 供給が非弾力的、すなわち欲しくても手に入らない経営資源が経済レントを生み出すというリカード経済学
  • 企業を多くの個人、行動、そして生産資源の束として理解すべし、とするペンローズの理論
5.2 組織の強みと弱みの分析

従来のアプローチを受け、ここでリソース・ベースト・ビューという考え方を導入する。

ポイントは2つあり、

  • 保有する経営資源は企業ごとに異なる
  • 経営資源の中でものによっては簡単に手に入らない

ということだ。

実際どのような経営資源やケイパビリティが競争優位を生じさせるかは、バリューチェーン分析により特定できる。

さらに、VRIOフレームワークというものを導入する。

これは4つの問いを立てることで、実際の議論を進め易くするものだ。

  • 経済価値(value)に関する問い
    企業が保有する経営資源やケイパビリティは、脅威や機会に対し有効なものであるか?
  • 希少性(rarity)に関する問い
    同様の経営資源やケイパビリティについて、現状どのくらいの競合企業が保有しているか?
  • 模倣困難性(inimitability)に関する問い
    そういった経営資源やケイパビリティを保有しない企業が、それらを獲得するにはどのくらいの不利を被らねばならないか?
  • 組織(organization)に関する問い
    経営資源やケイパビリティをフルに活用できる組織体制が整っているか?
5.3 VRIOフレームワークの適用事例

デルや、ペプシとコカ・コーラの事例を紹介している。

5.4 リソース・ベースト・ビューの意義

まずは、RBVやVRIOは企業内部の状況を分析するという意味で、5Forcesなど外部環境を分析するフレームワークと補完的であると説明している。

しかし、それだけではない。

分析に留まらず、マネージャーが、では実際どう競争優位を獲得するかと考える際にも役立つのだ。

5.5 VRIOフレームワークの限界

最後にVRIOフレームワークの限界についても説明している。

  • シュンペーター的変革のような変化が激しい場合は想定していない
  • いくら分析しようが本質的に詰んでいる時もある
  • 得てして競合企業の内部情報は得にくい

まとめ

もっと早く出会いたかった。それが全てである。

読む前は、バーニーやRBVはポーターのポジショニング理論に並び立つもの、合わせて経営戦略に対するアプローチの双璧を成すと思っていた。

しかし、蓋を開けてみれば8割はポーターの話ばかり。競争の戦略も読んだし競争優位の戦略も読んだ身としては退屈であった。

これは別に本書を否定しているわけではない。逆にポーターを読んでいない人に取っては、両アプローチをバランスよく学べる非常に良い教科書であると思う。

だが、いかんせんポーターを読んでしまった以上、2対8くらいでRBVをもっと詳しく説明してほしかった

そもそもポーターの理論を補完するような形だとは予想外だった。

繰り返しにはなるがポーターを読んでしまった人は5章だけ読めばいい気もする。

ポーターを読んだことない人は通して読むといいだろう。