仕事のためにビジネスを識る

よりよいビジネス書に出会えるための指南書

D.A.ノーマン『誰のためのデザイン?』ユーザビリティーについて深く根本的な理解を得よう

あなたがシステムや機械の操作を間違える。

そして、上司や管理者に怒られた後で、あなたは思う「だって使いにくいんだもの」

 

誰しも今まで使いにくいアプリや機械に出会ったことはあるだろう。

  • なぜ、デザイナーはこんな使いにくものをつくったのだろう?
  • 人が使いやすいものをつくるにはどうしたらいいんだろう?
  • そもそも、使いやすいってなんだろう?

そんな問いに答えてくれるのが、デザインについての古典ともいえる『誰のためのデザイン?』だ。

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

 

今となっては、UI・UXなどのユーザビリティーや人間中心設計という考え方は、それなりに普及してきた。

しかし、当時は技術が未熟なこともあり、機械の都合に人間が合わせることも少なくなかったそうだ。

そんな時代に、初めてユーザビリティーという概念を定義し、それを解説したのが本書だ。

さぁ、読んでみたくなっただろう。しかし、いささか問題がある。

デザインという分野もあり、書いてあることが抽象的で、けっこう難しい。

そこで読んでみようかなと思う人に向けて、

  • どんな本なのか概観するため
  • 読んでいる最中に現在地を見失わないようにするため

簡単に内容をまとめた。

繰り返しになるが、本書に出てくる概念は抽象的で少し難しいものもある。

本書を読む際は、常に具体的なイメージに落とし込みながら、読み進めることをお勧めする。

指標

  • テーマ:デザイン
  • 文章量:多め
  • 内 容:難しめ
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

第1章 毎日使う道具の精神病理学

まず、デザインを議論するうえで必要となる基本的なコンセプトの説明から入る。

ノーマン曰く、機械は単純なルールに従うのみで融通の利かないものだ。

それなのに、人がこの奇妙なルールに従わないと機械は動かないし、何より人が非難される。

あるべきはそうではないのだ。

人はよく間違う。この「人はよく間違える」というルールに、機械の方を従わせるべきなのだ。

 

ノーマン曰く、良いデザインには2つの特徴がある。

  1. 発見可能性
  2. 理解

そして発見可能性は、

  • アフォーダンス
  • シグニファイア
  • 制約
  • 対応付け
  • フィードバック

の5つの心理学的概念から得ることができる。

本書を読む際は、この関係性を意識するとよい。

また、デザインに「理解」を与えるためにはシステムの概念モデルを考える必要がある。

第2章 日常場面における行為の心理学

次に、人と機械のインタラクションのフローを説明している。行為の七段階理論だ。

すなわち、人が機械を操作するとき、

  1. ゴールの形成
  2. 行為のプランニング
  3. 行為系列の詳細化
  4. 行為系列の実行
  5. 外界の状態の知覚
  6. 知覚したものの解釈
  7. ゴールと結果の比較

というステップを辿るのだ。

これはちょうど人から機械、機械から人へとV字になっている。

第3章 頭の中の知識と外界にある知識

人が何か行動を起こすとき、必要な知識は人の頭の中にあると思われがちだ。

確かにそのような知識もあるが、案外その場で目に入った情報を利用している。

例えば、新しくダウンロードしたアプリだって、なんとなく操作できる。これは、ボタンの形だったりが、そこを押すことができ、押したらどうなるかということを示している。ボタン自体が外界にある知識となっているのだ。

しかし、iPhoneユーザーがアンドロイドを使うと戸惑う。

これは、すなわち、そういった外界にある知識を利用するにあたり、文化や習慣がベースとなり下支えしていることを意味する。

第4章 何をするか知るー制約、発見可能性、フィードバック

人が何ができるか、どうすべきかを知るとき4つの制約を利用している。

  • 物理的制約
  • 文化的制約
  • 意味的制約
  • 論理的制約

制約というとわかりにくいが、つまりは、何ができないかを示すことにより、何ができるかを浮かび上がらせるのだ。

例えば、物理的制約として、レバーが1方向にしか動きそうにないなら、そちらに動かすしかないのだ。

第5章 ヒューマンエラー? いや、デザインが悪い

まず、人が起こすエラーをスリップ、ミステークの2つに分け説明している。スリップとはいわゆるうっかりのことで、ミステークは意図的なものだ。

どちらにしろ人はエラーを起こすので、

  • エラーの防止
  • エラーが起きた場合の対処

というのを機械側で想定しておかなければならない。

第6章 デザイン思考

ここでデザイン思考の登場だ。

デザイン思考とは、

  • 観察
  • アイデア
  • プロトタイピング
  • テスト

の4つを反復するというプロセスだ。

第7章 ビジネス世界におけるデザイン

題の通り現実的、特にビジネスの文脈における留意点を説明している。

まとめ

いやはや、読み始めた当初は話が抽象的で何を言っているかいまいち掴めない本だった。

ただ読み終わって、かみ砕いて消化してみれば、内容の全てがその通りであるように感じた。不思議である。

個人的に読んだきっかけは、いわゆるシステムのUI設計に最適解はあるのかと疑問に思ったからだ。そういう意味では、まったくもって明日からUI設計に活かせる内容ではないかもしれないが、すべてのデザイン(設計)に通じる深く根本的な考え方を理解できた気がする

何であっても、ものづくりに携わる人には、広く勧めたい本だ。