ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』くだらない心理テク本をたくさん読むくらいなら、この1冊を読もう
誰だって心理学には興味がある。
なぜなら、ちょっとしたテクニックで他人をコントロールできれば、いろいろと役に立つからだ。
私もその1人であるが、今まで良い本に出会えていなかった。
理由は、よくある一般書籍は、それこそ表面的なテクニックが並べられているだけで、それを覚えこそすれど体系的に理解することができなかった。一方で、体系的に書かれている本を探すといわゆる学術書に行きついてしまうからだ。
求めていることは、そうじゃない。
そんな時、応用的な心理学が体系だって書かれている、とてもバランスの良い本に出会った。
それが、本書『影響力の武器』である。
本書では、いろいろな心理学的事例を、なんと6つの法則に集約している。
例えば、「ドア・イン・ザ・フェイス」のような有名なテクニックも、この6原則に含まれてしまうのだ。
信じられないという人は、私が実際に読んでみて内容をまとめたので見てみてほしい。
ぜひ、本書を読んで6つの法則を押さえ、今までのテクニックを寄せ集めただけというレベルから脱却してほしい。
指標
- テーマ:心理学
- 文章量:普通
- 内 容:易しい
- 行 間:普通
- 推薦度:★★★★☆
内容
第1章 影響力の武器
この本の中心となるコンセプト「カチッ・サー」を紹介している。
「カチッ・サー」とは、ボタンを押すとテープが流れる様を表している。
すなわち、人はあるトリガーによって引き起こされる行動パターンを持っている。
本来は、このような、ある条件に対する反射的な反応は、わざわざ考え込むという時間を省略できるので、効率的であり経済的であるのだ。
しかし、中にはこの仕組みを悪用したり、ちょっとした武器として利用する人がいる。
本書では、その仕組みを6つの法則に集約し、その行動パターンと対抗策について説明している。
第2章 返報性
いわゆるギブ・アンド・テイクのことだ。
だいたいの人は理解できると思うが、誰かに何かをしてもらったとき、自然と次はこちらから何かをしてあげようという気持ちが湧く。
これを利用すると、先にこちらから何かをしてあげれば、自然とこちらが欲しいものを相手に要求できるかもしれない。
この逆バージョンとして、譲り合いもこのパターンに含まれる。
つまりは、今回こちらが譲ったのだから、次回はそちらが…という圧力だ。
このパターンに比較的有名な応用テクニック譲歩的要請法、つまりドア・イン・ザ・フェイスが含まれる。
第3章 コミットメントと一貫性ー心に住む小鬼
人は、自分の言葉や行動を一貫したものにしたいという欲求がある。
そのため、人はコミットメント(他者への宣言、意志の表明)を行うと、その後はそれに合致した要求を受け入れやすくなる。
思い返してみれば、学校や会社が本人に目標を考えさせ、みんなに見える形で書き出させるのは、この原理に則っている。言ってしまったからには、達成せねばという気持ちになるのだ。
第4章 社会的証明ー真実は私たちに
ザ・日本人のような、空気を読む、まわりの人に従ってみるというやつだ。
よくある話だが、自分は絶対にAだと思っていたのに、他の人全員がBと答えると、なぜか自分もBと答えてしまうのだ。
第5章 好意ー優しそうな顔をした泥棒
誰だって好意を抱いている人のお願いは聞いてあげたいものだ。
ちょっとおもしろいと思ったのが、この原理をもう一歩進めると、人は望ましいものを自分自身と結び付けたがるという性質が見えてくる。
例えば、スポーツを観戦している人は応援しているチームが勝つと「俺たちは勝った!」と叫ぶ。しかし負けると「奴ら負けやがって!」と愚痴るのである。
第6章 権威ー導かれる複縦
有名なミルグラムの研究、すなわち権威を持った支持者からやれと命じられれば、それが致死的な量でも電気ショックのボタンを押してしまうというやつだ。
悲しいかな、偉い人が指示すると、人は偉いというところばかりに気を取られ、その内容はあまり気にせず盲目的に従ってしまうようである。
第7章 希少性ーわずかなものについての法則
こちらも実感できる性質だろう。
数量限定、期間限定と言われるとついつい買ってしまう。
確かに希少性があると論理的に考えても手に入れておいた方がいいのかもしれないが、それとは別に心理的な力もはたらいてしまうのだ。
第8章 てっとり早い影響力ー自動化された時代の原始的な承諾
冒頭での「カチッ・サー」という素早い意思決定は、情報過多な現代には必要となる性質だ。
そのトリガーや発動する場面が、想定されたものである限りなんの問題もない。
しかし、ねつ造されたトリガーや、悪意のある場合には、発動し掛けている性質を自覚し、対抗していかなければならない。
まとめ
冒頭にも書いたが、この本を見つけたとき、求めていた本はこれだよ!と思った。
心理学の本といえば、学術よりの専門書か、応用例が羅列されただけの一般書だけしか知らなかった。
繰り返しになってしまうが、この本の価値は、専門用語を使わずあくまで臨床的である内容にもかかわらず体系的かつ演繹的に書いてあるところだと思う。
それでも専門家から見ればくだけ過ぎた内容なのかもしれないが、パンピーが普段の生活で応用するには十分な内容だ。
悪用はいけないが、普段ちょっとした機会に使えるテクニックを身につけるには良い本だろう。