M.E.ポーター『競争の戦略』なぜ古典的名著なのか?実際に読んでみてわかった偉大さ
最も知名度がある超ド級の経営学者といえばマイケル・ポーターだろう。
その名を知らなくても、5フォース、コストリーダーシップや差別化戦略、バリュー・チェーンという言葉は聞いたことないだろうか?
彼は、史上最年少でハーバード大学の教授となった後、1980年にある1冊の本を書き上げた。
それが経営戦略論のバイブルとして今なお愛読されている『競争の戦略』である。本書では、5フォースを中心にポーターの緻密な理論が展開されている。
- 作者: M.E.ポーター,土岐坤,服部照夫,中辻万治
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 1995/03/16
- メディア: 単行本
- 購入: 11人 クリック: 145回
- この商品を含むブログ (79件) を見る
さぁ、読んでみたくなっただろう。しかし、ここに重大な問題がある。
とにもかくにも分厚過ぎる。
決して易しくはない内容が500ページにもわたり、本屋で手に取ってみるとその重さたるや、なかなか持ち歩いたり、電車の中で読む気にはならない。
読書に慣れていない人は、きっと怖気づいてしまうことだろう。
しかし、書かれている内容は素晴らしい。
巷には解説書のような薄っぺらい本が溢れているが、ポーターの良さはその緻密さにあると思う。ぜひ、それを味わってほしい。
そこで、これから読んでみようかと迷っている人の助けとなるべく筆を執った。
すなわち、
- 誰しも得体のしれないものは怖い。ある程度、内容を知れば、読み始めるハードルも下がるはずだ
- 読んでいる最中も全体の流れの中で現在地を見失わなければ必ず読み終わることができるはずだ
という考えのもと簡単に内容をまとめてみた。
ぜひ、これを参考に近代の経営戦略論の原点を味わってほしい。
ちなみに追い打ちを掛けるようだが、本書には姉妹書『競争優位の戦略』が存在する。
この本もぜひとも読んでほしい本だ。
安心してほしい。こちらの本にも同様の手助けを用意してある。
指標
- テーマ:経営戦略
- 文章量:とても多い
- 内 容:高度(緻密)
- 行 間:狭い、とても丁寧
- 推薦度:★★★★★(満点)
内容
パートⅠ競争戦略のための分析技法
パートⅠでは、これから始まる緻密な分析に必要となる基本的なコンセプトの説明から始まる。
1章 業界の構造分析
本書、すなわちポーター理論では、自社が業界の中で自社に有利な位置を陣取ることができれば競合との競争に勝つことができるという考え方がベースになっている。
そのために、まず必要となるのが業界の構造分析だ。
ここで登場するのが、超が付くほど有名な5フォースというフレームワーク。
説明する必要もないかもしれないが、5フォースとは業界に、
- 買い手の交渉力
- 供給企業の交渉力
- 新規参入業者の脅威
- 代替品の脅威
- 競争企業間の敵対関係
という5つの競争要因(=5つの力)が存在するという考え方だ。
2章 競争の基本戦略
そのような業界の中で戦っていく際に指針となるのが、3つの基本戦略だ。
すなわち、
- コストリーダーシップ
- 差別化
- 集中
の3つであり、これらのうちどれかを選択することが重要である。あっちもこっちもと二兎を追ってはいけない。そうすると戦略がぼやけてしまうのだ。
ちなみに、このコンセプトについては、姉妹書『競争優位の戦略』の方でより詳細に扱われることになる。
3章 競争業者分析のフレームワーク
さて、ここからが本番で、いよいよポーターの緻密な分析が始まっていく。
競争の戦略というだけあって、まずは競争業者を分析するための切り口を説明している。
4章 マーケット・シグナル
マーケット・シグナルとは、他社の行動を予知する手掛かりとなるものだ。
すなわち、企業が何かを企むと、どうしてもその行動が何らかの形で市場に滲み出てしまうのだ。
これは競争において重要なものとなる。
マーケット・シグナルをキャッチして適切に読み解くことができれば、競争業者が何を企んでいるのか予知できるからだ。
5章 競争行動
競争行動とは、こちらが何らかの戦略を行使したときに、対抗なりなんなり競争相手が示す反応のことだ。
すなわち、戦略を考える際には、相手の競争行動があるところまで考えておかねばならない。
こちらの戦略に対し、競争業者が業界もろとも破滅に追い込むような愚行を取ることが予想される場合、その戦略は使うことができない。
例えば、値切り合戦のような構図になってしまっては業界が疲弊してしまう。
6章 買い手と供給業者に対する戦略
言ってしまえば、自分にとって都合のいい買い手を選んでおこうという内容だ。
立場を逆にすれば、供給業者に対する戦略となる。
7章 業界内部の構造分析
ここまでは業界単位で話を進めてきたが、本章では業界内部を分析する。
そのために戦略グループというものを定義する。これは、すなわち業界内部で戦略の方向性によって分類したグループである。
この戦略グループを定義することにより、これまで業界単位で行ってきたようなのと似た分析が業界内部でできるのだ。
ここで少し考察を入れるとすると、この業界単位での分析を業界内部に適用する入れ子メソッドを導入することにより、より細かい単位での分析が帰納的に進めていけそうだ。さすがはポーター、恐ろしい…
8章 業界の進展・変化
ここまでの分析では時間軸を意識してこなかったが、もちろん業界はどんどん変わっていくものだ。
これも分析に入れねばならない。
しかし、業界の変化を予想するのはなかなか困難だ。
よって、その変化自体ではなく、変化を引き起こす要因に注目しておけば、なんとか対応できそうだ。
パートⅡ 業界環境のタイプ別競争戦略
ここからは業界の状況を絞って、より具体的な話に入る。
内容は章のタイトルの通りなので割愛する。
- 9章 多数乱戦業界の競争戦略
- 10章 先端業界の競争戦略
- 11章 成熟期へ移行する業界の競争戦略
- 12章 衰退業界の競争戦略
- 13章 グローバル業界の競争戦略
パートⅢ 戦略デシジョンのタイプ
パートⅢでは、決めなきゃなんねぇって場面を3つほど取り上げている。
14章 垂直統合の戦略的分析
つくるか、買うかをどう決めるか。
間接的な影響も含めて判断すべきという話。
15章 キャパシティ拡大戦略
工場とか設備を大きくしてよいか。
当然、需要があるのは必須だが調子にのると業界全体が設備過剰になってしまう。
16章 新事業への参入戦略
吸収合併または社内での新規事業としてどう参入していくか。
また、参入の成果は基本的な市場要因で決まってしまうと説明している。
まとめ
実際に読んでみて、壮大な本だった。
まず驚いたのは、あれだけ有名で、かつ本書のベースとなる5フォースの説明がたった1章で終わってしまったことだ。
あくまで5フォースという枠は業界構造を捉えるためのフレームワークに過ぎず、重要なのはそれを用いた緻密な分析にある。
いやはや、ここまで緻密な分析とは思っていなかった。
非常に丁寧な展開ではあるのだが、読み進めるごとに分析すべきことが指数的に増えていっており、なぜ戦略コンサルタントが職業になるのか実感できた。
同時にそれが本書を読む醍醐味であり、本書が古典的名著であり、その理論が多くの影響を与えていることも理解できた。
冒頭にも書いたが、確かに分量が多いので読むのは大変である。
しかし、学ぶことも多く、ぜひとも時間を割いて読み込むべき本である。