藤本隆宏『生産マネジメント入門〈1〉生産システム編』戦略?マーケ?いやいや実際に企業を支えているのは現場のQCDだ
QCDというフレームワークをご存じだろうか。
ビジネスマンであれば、研修や上司からQCDを意識しろなんて言われた経験があるかもしれない。
QCDとは、品質、コスト、納期の頭文字で、仕事でもなんでもアウトプットの際に気を付けるべきこととして扱われている。
しかし、このQCDというやつ、その原点から理解している人はどれくらいいるのだろうか。
実は、QCDというフレームワークは、ゴリゴリの製造業に端を発し、要素ごとに様々な戦術が編み出されている。
そんな、製造業を中心にQCDの奥深さを解説したのが『生産マネジメント入門〈1〉生産システム編』だ。
生産マネジメント入門〈1〉生産システム編 (マネジメント・テキスト)
- 作者: 藤本隆宏
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2001/06/01
- メディア: 単行本
- 購入: 7人 クリック: 58回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
え、私は製造業ではないので関係ない?
いやいや、そんなことはない。いつものごとく、内容を簡単にまとめたので見てほしい。
確かに本書では、具体的なイメージとして製造業を扱っていくが、開発から生産までを広義の情報の転写と捉え、そのプロセスを抽象的に扱おうと試みている。
これにより、例えサービス業であっても、企業内部の価値連鎖をどう管理し、どう改善していくかという意味で、本書は役に立つはずだ。
さぁ、読んでみたくなっただろう。
戦略やマーケティングと比べて、確かに泥臭い話ではあるが、だからこそリアリティをもって楽しむことができるだろう。
ぜひ、読んでほしい。
2巻『生産マネジメント入門〈2〉生産資源・技術管理編』についてはこちら。
指標
- テーマ:技術・生産管理/オペレーション
- 文章量:普通
- 内 容:普通
- 行 間:普通
- 推薦度:★★★★★(満点)
内容
本書の位置づけは、
「文系・事務系の人にも理系・技術系の人にも読んでもらいたい技術管理・生産管理の教科書」
としている。
第Ⅰ巻では、生産マネジメントのイントロダクション+生産システムのアウトプット面としての生産工程を扱っている。
第Ⅱ巻では、生産システムのインプット面として経営資源の管理や製品開発を扱っている。
第1部 生産システムの基礎
第1章 はじめに:競争力とシステムの視点
まず、本書の特徴として、
- 開発から生産までをトータルシステムとして考える
- 広義の情報の側面に着目する
- 競争力に焦点を当てる
ということをあげている。
広義の情報の側面とは、ITで扱う電子情報だけではなく、例えば自動車ボディのプレス工程を「人が持つ知識・熟練、紙上の設計、プレス機の仕様」から「鋼の塊」への情報の転写と考えるということだ。
このように抽象的に考えることで、トータルシステムとして考えることができるというわけだ。
第2章 開発と生産のプロセス分析
とにもかくにも製造企業を分析する際にはプロセス分析が必要になる。
さらに、第1章の方針に従い広義の情報のプロセスとして捉えると製品設計と工程設計は対応させることができると説明している。
簡単に言うと、設計上ネジを3つ使うことになっているのであれば、当然ネジを止める工程が3つあるということだ。
第3章 製品と工程の歴史分析:「大量生産方式」とは何であったか
製品・工程ライフサイクルの考え方を軸に、
- アメリカ的製造システムからの大量生産方式
- テイラー主義
- 日本型=トヨタ的生産システム
を説明している。歴史の話だ。
第2部 競争力ファクターの管理
ここからは競争力について具体的な話に入る。
第4章 競争力とその構成要素
競争力には、
- 情報すなわち製品を受け取る側で把握できる表層の競争力
- 情報を発信すなわち開発・生産を行う企業側で把握できる深層の競争力
があり、本書では後者を扱う。
前者は、いわゆる4P(Product, Price, Promotion, Place)で構成されるものだ。
そして後者はQCDF、
- Quality
- Cost
- Delivery
- Flexibility
で構成される。
第5章 コスト・生産性の管理と改善
まず、QCDFのC、すなわちコストについてだ。
現状を把握するための原価管理の諸手法の紹介から始まり、その上で生産性が高いのか低いのか判断を下すための生産性の定義について説明している。
また、生産性のダイナミックな変化という意味で学習効果にも触れる。
後半は、生産性を高めていくための活動について、IEやJIT方式についてだ。
第6章 納期と工程管理
次にD、納期だ。
まず、生産には大きく分けて見込み生産と受注生産があることを説明している。
その上で、前半は生産計画や生産統制についてだ。
後半は、生産期間をどう短縮していくかという話になる。これはすなわち、価値を吸収していない時間=在庫の管理を意味する。
第7章 品質とその管理・改善
そしてQ、品質の話に入る。
本章では、開発品質ではなく製造品質に注目する。
前半は、統計的品質管理の話だ。これは工程内不良率を所与としていかに検査を最適化するかという話で、例えば抜き取り検査とすべきか全数検査とすべきか等だ。
後半は、そもそもの工程内不良率そのものを低減していく活動として品質作り込みやTQC(Tortal Quality Control)について説明している。
第8章 フレキシビリティ
最後はF、フレキシビリティすなわち柔軟性だ。
今さらだがよく聞くのは、Fがない「QCD」ではないだろうか。
QCDは、それ自体が特定のレベルに達することで顧客の満足に繋がる。
だが、フレキシビリティとは、そういったQCDのレベルが環境の変化や多様性に対し影響を受けないという能力であり、その意味で顧客満足への貢献は間接的だ。
しかし、競争力へ貢献していることには変わりない。少し質は異なるがQCDの列に加える。
フレキシビリティは大きく分けて、
- 部品のフレキシビリティ
- 工程のフレキシビリティ
がある。
第9章 生産戦略
第1巻のまとめだ。
前半は、経営戦略との絡みについて説明している。例えば、生産戦略は、
- 企業戦略
- 事業戦略
- 機能戦略
のうち、もちろん機能戦略に分類される。
後半は、これまでのQCDF個々の話を踏まえたうえで、全体として生産能力をどの程度どのように用意すべきかについて説明している。
まとめ
私自身も製造業ではないので、どうなのかと思っていたが、意外とおもしろかった。
経営戦略の本は王道としてのおもしろさがあるが、いかんせんほとんどの人にとってはリアリティがない。
しかし、本書は現場のオペレーション、現場のマネジメントに関する本ということで、読んでいる最中に自分の会社だったらどうなのだろうと身近な景色が思い浮かんだ。
確かに具体的な話は、すべて製造業となるので、直接役に立つような話は多くないだろうが、もう少し抽象的な意味での社内のプロセスの扱い方としては役に立ちそうな話ばかりだった。
また、製造業でない人が製造業について勉強するためには、分量、テーマ共にバランスの良い教科書だ。
2巻が楽しみであると共に、小売・サービス業に関しても同様の話があるのだろうかと気になった。