クレイトン・クリステンセン『ジョブ理論』結局クリステンセンであっても、この結論にたどり着くのか?
2020年1月、イノベーションの大家クリステンセンが亡くなってしまった…
クリステンセンは、1997年に『イノベーションのジレンマ』を出版した。
『イノベーションのジレンマ』では、破壊的イノベーションという概念を用いて、なぜ大企業がイノベーションのジレンマに陥るのか、そのメカニズムをわかりやすく説明している。
これはこれで興味深いことなのだが、一方で、どうすれば破壊的イノベーションを起こせるかという問いには答えていない。
そう、もう、おわかりだろう。
『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』では、どうすれば破壊的イノベーションを起こせるかという問いに、ひとつの答えを与えている。
ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位! ハーパーコリンズ・ノンフィクション)
- 作者:クレイトン M クリステンセン,タディ ホール,カレン ディロン,デイビッド S ダンカン
- 発売日: 2017/08/01
- メディア: 単行本
さぁ、読んでみたくなっただろう。
いつものごとく、簡単に内容をまとめたので、読もうかどうか考える際、そして読んでいる最中に参考にしてほしい。
長年、イノベーションを研究してきたクリステンセンが出した答えとはいかに?
ぜひ、その理論を堪能してほしい。
指標
- テーマ:イノベーション
- 文章量:少なめ
- 内 容:普通
- 行 間:普通
- 推薦度:★★★★☆
内容
序章 この本を「雇用」する理由
第1部 ジョブ理論の概要
かつてクリステンセンは、破壊的イノベーション理論によって、業界に君臨する大企業が、なぜぽっと出の企業に打ち負かされるのかを解き明かした。
イノベーションのジレンマを読んでいない人がいれば、ぜひとも読んでほしいと思う。とてもおもしろい本だ。
しかし、破壊的イノベーション理論は、その現象のメカニズムを説明すれど、どうやればイノベーションを起こせるかという問いに対しては答えていない。
第1章 ミルクシェイクのジレンマ
まず、
「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか」
という話から始まる。
もともとミルクシェイクを買っていくマス層に対し、値段や量、味を変えるような試行錯誤をしていたが、何も変わらなかった。
そこで調査チームは、
「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを"雇用"させたのか」
とアプローチを変えてみると…
この、顧客がプロダクト・サービスを利用するとき、そこには何か顧客にとって重要なジョブがあり、それを解決するためにプロダクトやサービスを雇用するのだ、という考え方が本書の肝となるる考え方「片付けるべきジョブ」理論だ。
第2章 プロダクトではなく、プログレス
本書ではジョブを、
"ある特定の状況で人が遂げようとする進歩"
と定義している。
そして、この定義には「状況」が含まれることを念押ししている。
すなわち、ジョブとは状況、文脈、コンテクストを特定して初めて定義することができ、よってジョブを理解するためにはそれらを理解する必要があるのだ。
その具体的な方法として、
- その人がなし遂げようとしている進歩は何か。
- 苦心している状況は何か。
- 進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。
- 不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。
- その人にとって、よりよい解決策となる基準、また、そのためにトレードオフにしてよいものは何か。
を考えなくてはならない。
第3章 埋もれているジョブ
以上を踏まえ、サザンニューハンプシャー大学の事例を中心に、ジョブを理解することが、いかに成功へ繋がるかを説明している。
第2部 ジョブ理論の奥行きと可能性
第4章 ジョブ・ハンティング
ジョブの見つけ方については2章で簡単に触れたが、ここではより詳細に説明している。
具体的には、
- 生活に身近なジョブを探す
- 無消費と競争する
- 間に合わせの対処策
- できれば避けたいこと
- 意外な使われ方
という方法だ。
そして最後に「感情面の配慮」と銘打って、再度ジョブの文脈を理解する重要性を説いている。
第5章 顧客が言わないことを聞き取る
実際、顧客の「片づけるべきジョブ」を理解することはとても難しい。
例えば、
消費者が自分の望みをつねに明確に説明できるとは限らない。
環境にいいものを選ぶと言いつつも、その利便性ゆえに使い捨てのものを使うひとは少なくないだろう。
では、客観的なデータで判断すればいいのか?
否、それも偏っているという。
なぜなら、データというのは「買ったとき」のことを語れど、「使うとき」=ジョブについては語らないからだ。
第6章 レジュメを書く
ここに来て、
ジョブの特定は最初のステップにすぎないこと
が判明する。
ジョブを中心にしたイノベーションは、
- ジョブの特定
- 求められる体験の構築
- ジョブ中心の統合
という3ステップで構成されるのだ。
詳細は、第3部に続く。
第3部「片づけるべきジョブ」の組織
第7章 ジョブ中心の統合
なんの統合かというと社内プロセスの統合だ。
ジョブを中心に考えると、サービサーの組織体系だってジョブの解決に向いた形に統合されるべきだし、業績の評価基準も顧客ベネフィットによるものとなるべきなのだ。
第8章 ジョブから目を離さない
よくある話だが、プロダクトが実際に生産され、販売されていくと、なぜ顧客がそれを雇用するのかという最も重要な初心を忘れがちという警鐘だ。
それは企業が生成したデータを見るにあたり、
- 能動的データと受動的データの誤謬
- 見かけ上の成長の誤謬
- 確証データの誤謬
という3つのデータの読み間違え(誤謬)にハマるからだ。
第9章 ジョブを中心とした組織
「片づけるべきジョブ」を理解し、そこにフォーカスすることは、企業にとってもメリットがある。
すなわち、
- 意思決定の分散化
- 資源の最適化
- 意欲の向上
- 適切な測定能力
に繋がるのだ。
そして、ジョブを中心に据えることは、企業全体がそこへ向かうことを意味する。
これはどの企業も掲げているフワフワした企業理念とは異なるもので、明確に目指すことのできる"北極星"と言える。
第10章 ジョブ理論のこれから
最後にジョブ理論の狙いと、理論としての扱い方を説明して終わる。
まとめ
偉大なるクリステンセンだからこそ、この本の評価は分かれると思った。
破壊的イノベーション理論の生みの親であるあのクリステンセンがイノベーションの生み出し方を考えたというわりには、蓋を開けてみれば、真新しさは感じなかった。
正直、ジョブはレビット博士のドリル話だし、文脈が効いてくるというのもUX、CXで出てくる。
それに「で、イノベーションはどうやるの?」という問いの答えが「状況を読み解き顧客が真にやろうとしていることを見抜くべし」では、あまりにも陳腐だ。
一方で、クリステンセンも多くの研究の結果、昨今のコンセプトと同じようなところに落ち着いたと捉えることもできる。
UX、CXの本はテクニックの解説のような本が多いイメージだが、この本は事例も多く、ゆっくりと考え方を頭に入れることができる。
そのあたりに詳しい人には退屈かもしれないが、初学者や改めて腹落ちさせたい人にはとてもいい本だと思う。