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ジェイ・B・バーニー『企業戦略論【上】』SWOTから導かれるポジショニング理論に足りない視点とは?

バーニーは、ポーターの対抗馬としてよく名前が挙がる。

ポーターは、業界における企業の位置づけに注目し、企業が自分に有利な形で業界に陣取ることができれば、自然と競争優位に繋がると説いた。

これはポジショニング理論と呼ばれたりする。

一方で、バーニーは企業の内部に注目し、企業が抱えるリソースこそが競争優位の源泉であると説いた。

この考え方をリソース・ベースト・ビューと呼び、実際にはVRIOというフレームワークを導入した。

これを経緯と共に解説したのが本書『企業戦略論【上】』である。

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

 

本書では、実はポジショニング理論とリソース・ベースト・ビューが超有名フレームワークSWOTによって結びつく話もある。

さぁ、読んでみたくなっただろう。

ただし、本書ではかなりのページをポーターの復習に割いている。

私が実際に読んでみて簡単に内容をまとめたので、参考にしながら自分のレベルにあった読み方をしてほしい。

ぜひ、ポーターの理論と比較しながら読んでほしい。

指標

  • テーマ:経営戦略
  • 文章量:普通
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★☆

内容

第1章 戦略とは何か

まず、問題提起として以下3つの企業の事例から始まる。

  • マイクロソフト
  • ディズニー
  • ウォルマート

これらの企業を成功に導いた戦略とはなんだろうか。

1.1 戦略という概念の定義

本書では戦略を、

いかに競争に成功するか、ということに関して一企業が持つ理論

と定義している。

企業が取り得る競争上のポジションとしては、

  • 競争優位
  • 競争均衡
  • 競争劣位

の3つがある。

すなわち、戦略とは競争優位を目指すためのセオリーと言えるのだ。

1.2 戦略と企業ミッション

次に、従来の戦略へのアプローチの説明に入る。

競争セオリーが、その企業のミッションによるものだという説がある。

しかしこれには、

  • 内向きであり、外部環境が考慮されていない
  • 現場のマネージャーには役に立たない

という限界がある。

1.3 創発戦略

一方で創発戦略というものもある。

つまりは場当たり的な考えのことで、時間の経過と共に何となく定まってくるタイプの戦略のことだ。

1.4 戦略と企業経営の環境条件

以上を踏まえて、本書の軸となるフレームワークが導入される。

誰もが知っているであろう、SWOTだ。

曰く、競争セオリーが意図的なのか創発的なのかに限らず、成功したものには以下4つが考慮されているというのだ。

① 企業の内部条件としての強み(Strength)
② 企業の内部条件としての弱み(Weekness)
③ 企業の外部条件としての競争市場における機会(Opportunity)
④ 企業の外部条件としての競争市場における脅威(Threat)

第2章 パフォーマンスとは何か

2.1 戦略の定義とパフォーマンスとの関係

ところで、企業は競争優位を構築してどうしたいのだろうか。

それは競争均衡や劣位にある企業より、よいパフォーマンスをあげたいのだ。

2.2 パフォーマンス概念の定義

パフォーマンスは絶対値でなく、期待値と実際値の関係によって評価される

高品質の材料で最高のアウトプットを出すよりも、低品質の材料でそれなりのアウトプットを出す方がパフォーマンスとしては評価されるのだ。

期待値と実際値のプラスの差を経済的利益、または経済レントという。

2.3 企業パフォーマンスの測定

では実際、企業のパフォーマンスをどう測るかというと、

  • 企業の存続期間
  • ステークホルダー・アプローチ
  • 純粋な会計数値
  • 修正を施した会計数値

による手法を説明している。

第3章 脅威の分析

ここからは、SWOTに沿って話が進む。

3.1 SCPモデル

その前に、少しだけSWOTに至った経緯の話が挟まる。

1930年代、経営学者によって業界構造、企業行動、パフォーマンスの頭文字を取ったSCPモデルというフレームワークが生み出された。

これは、この3つの要素を分析することで、

  • 完全競争
  • 独占的競争
  • 寡占
  • 独占

を特徴づけ、社会的厚生のため各業界を完全競争に持ち込むためのものであった。

しかし、経営者はこれを逆に利用したのである。

 

さてさて、ここからはポーターによる競争の戦略の説明だ。

  • 3.2 脅威を分析する5つの競争要因モデル
  • 3.3 5つの競争要因と業界平均のパフォーマンス
  • 3.4 5つの競争要因モデルの適用事例
  • 3.5 国際環境における脅威

第4章 機会の分析

4.1 業界構造と機会

本節では特定の業界に対し、どのような機会が存在するかを説明している。

前半5つは、ポーターの言及するところだ。

  • 市場分散型業界
  • 新興業界
  • 成熟業界
  • 衰退業界
  • 国際業界

さらに新しく3つの業界について説明している。

  • ネットワーク型業界

いわゆるネットワーク効果が効くような業界の話だ。

  • 超競争業界

ソフトウェアやバイオテクノロジーなど技術革新・創造が目まぐるしい業界の話だ。

  • コアなし業界

ここで言うコアなしとは安定点が存在しないという意味で、あちらが立てばこちらが立たずといった構造を持つ業界の話だ。

 

引き続き、ポーターによる分析の話だ。

  • 4.2 戦略グループによる脅威と機会の分析
  • 4.3 脅威と機会の分析におけるSCPモデルの限界

第5章 企業の強みと弱み―リソース・ベースト・ビュー

ここからが本書の意義だろう。

5.1 企業の強み・弱みに関するこれまでの研究

大きく3つ紹介している。

  • 経営者もしくは組織体制自体が強み・弱みを決めるという伝統的研究
  • 供給が非弾力的、すなわち欲しくても手に入らない経営資源が経済レントを生み出すというリカード経済学
  • 企業を多くの個人、行動、そして生産資源の束として理解すべし、とするペンローズの理論
5.2 組織の強みと弱みの分析

従来のアプローチを受け、ここでリソース・ベースト・ビューという考え方を導入する。

ポイントは2つあり、

  • 保有する経営資源は企業ごとに異なる
  • 経営資源の中でものによっては簡単に手に入らない

ということだ。

実際どのような経営資源やケイパビリティが競争優位を生じさせるかは、バリューチェーン分析により特定できる。

さらに、VRIOフレームワークというものを導入する。

これは4つの問いを立てることで、実際の議論を進め易くするものだ。

  • 経済価値(value)に関する問い
    企業が保有する経営資源やケイパビリティは、脅威や機会に対し有効なものであるか?
  • 希少性(rarity)に関する問い
    同様の経営資源やケイパビリティについて、現状どのくらいの競合企業が保有しているか?
  • 模倣困難性(inimitability)に関する問い
    そういった経営資源やケイパビリティを保有しない企業が、それらを獲得するにはどのくらいの不利を被らねばならないか?
  • 組織(organization)に関する問い
    経営資源やケイパビリティをフルに活用できる組織体制が整っているか?
5.3 VRIOフレームワークの適用事例

デルや、ペプシとコカ・コーラの事例を紹介している。

5.4 リソース・ベースト・ビューの意義

まずは、RBVやVRIOは企業内部の状況を分析するという意味で、5Forcesなど外部環境を分析するフレームワークと補完的であると説明している。

しかし、それだけではない。

分析に留まらず、マネージャーが、では実際どう競争優位を獲得するかと考える際にも役立つのだ。

5.5 VRIOフレームワークの限界

最後にVRIOフレームワークの限界についても説明している。

  • シュンペーター的変革のような変化が激しい場合は想定していない
  • いくら分析しようが本質的に詰んでいる時もある
  • 得てして競合企業の内部情報は得にくい

まとめ

もっと早く出会いたかった。それが全てである。

読む前は、バーニーやRBVはポーターのポジショニング理論に並び立つもの、合わせて経営戦略に対するアプローチの双璧を成すと思っていた。

しかし、蓋を開けてみれば8割はポーターの話ばかり。競争の戦略も読んだし競争優位の戦略も読んだ身としては退屈であった。

これは別に本書を否定しているわけではない。逆にポーターを読んでいない人に取っては、両アプローチをバランスよく学べる非常に良い教科書であると思う。

だが、いかんせんポーターを読んでしまった以上、2対8くらいでRBVをもっと詳しく説明してほしかった

そもそもポーターの理論を補完するような形だとは予想外だった。

繰り返しにはなるがポーターを読んでしまった人は5章だけ読めばいい気もする。

ポーターを読んだことない人は通して読むといいだろう。