フィリップ・コトラー『コトラーのマーケティング4.0』流石はコトラー、デジタル世代も頷ける納得のコンセプト
マーケティングの大家コトラーは、かつてマーケティングの辞典とでも言うべき大著『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』を出版した。
さらに2010年、新たなコンセプトを引っ提げて『コトラーのマーケティング3.0』を出版した。
そして2016年、「マーケティング」は早くもバージョンを上げることになった。
その名も『コトラーのマーケティング4.0』である。
副題には、スマートフォン時代とある通り、マーケティング3.0の精神的なコンセプトとは打って変わって、マーケティング4.0ではデジタル化したこの時代に対するアプローチとなる。
『マーケティング3.0』に引き続き、本書も実際に読んでみて、内容をまとめたので、これから読もうかと考えている人は参考にしてほしい。
『マーケティング3.0』についてのまとめはこちらにある。どちらから読んでもいいので比較しながら決めてほしい。
指標
- テーマ:マーケティング
- 文章量:少なめ
- 内 容:普通
- 行 間:普通
- 推薦度:★★★★☆
内容
はじめに――『マーケティング3.0』から『マーケティング4.0』へ
第1部 マーケティングを形づくる基本的なトレンド
第1章 つながっている顧客へのパワーシフト
かつてのG7は、インド、インドネシア、中国などを巻き込まざるを得ず、今やG20である。
そして現在、世界で最も人口の多い国は人口16億5千万人の「フェイスブック合衆国」である。
これは、すなわち縦の権力構造が弱まり、横の力が存在感を増してきたことを意味する。
今やイノベーションを生み出すのも、企業や国の内部でトップダウンにというよりも、それらの垣根を超え、協働によるものが多くなっているのだ。
マーケティングにおいてもソーシャル・メディアの台頭により顧客はつながり、企業からのトップダウンな広告よりも、口コミの方が力を持ってきている。
第2章 つながっている顧客に対するマーケティングのパラドックス
デジタル・ネイティブに代表されるような新しいタイプの顧客は、何でもモバイルで、生活のペースが速く、きわめて接続性が高いという特徴がある。
この接続性は、マーケティングを行う上で3つのパラドックスを生む。
- オンライン交流 対 オフライン交流
一見、オンラインとオフラインの交流はカニバるように見える。
しかし、将来的にはオンラインとオフラインの要素は統合され、総合的な顧客経験をつくり上げることが重要になると説明している。
- 情報を持っている顧客 対 注意力散漫な顧客
今日の顧客は、多くの情報を持ち、知識のレベルは上がっているにもかかわらず、何を買いたいかを自分でコントロールしない。
こうなると、まず「ワオ!」と関心を引くこと、そして顧客コミュニティの中でブランドに関するカンバセーションを活性化させる、すなわちバズらせることが大切だ。
- 批判的な意見 対 好意的な意見
接続性のもとでは、好意的なものもあれど批判的な口コミの影響は大きい。
この場合、批判的な意見をトリガーに、ブランド愛好家が擁護の声をあげるという構図を目指せばよい。
第3章 影響力のあるデジタル・サブカルチャー
デジタル世界では、ブランドに関する推奨を求めたり、与えたりする傾向が強いセグメントに力を集中すべきである。
すなわち、
- 若者
- 女性
- ネティズン(Net + Citizen:ネットユーザー)
だ。
第4章 デジタル経済におけるマーケティング4.0
さて、以上の前置きがあり、いよいよマーケティング4.0が定義されることになる。
マーケティング4.0とは、
企業と顧客のオンライン交流とオフライン交流を一体化させるマーケティング・アプローチ
だ。
オンラインとオフラインの一体化を謳っていることからもわかるように、マーケティング4.0は、伝統的なマーケティングを否定するものではない。
マーケティング4.0では、顧客の推奨を勝ち取るためにデジタル・マーケティングと伝統的マーケティングは共存すべきとしている。
第2部 デジタル経済におけるマーケティングの新しいフレームワーク
第5章 新しいカスタマー・ジャーニー
接続性云々の前の時代には、AIDA、4Aといったカスタマー・ジャーニーのフレームワークが存在した。
しかし、接続性の時代が到来した今、カスタマー・ジャーニーは、
- 認知(aware)
- 訴求(appeal)
- 調査(ask)
- 行動(act)
- 推奨(advocate)
の5Aに修正されるべきであり、マーケティング4.0の究極の目的は顧客を「認知」から「推奨」まで到達させることとなる。
そして、そのために利用できる影響力の主な源は3つある。
- 自分自身の影響(Own)
- 他社の影響(Others')
- 外的影響(Outer)
本書では、これらをまとめてOゾーン()と呼ぶ。
余談になるが、この呼び方は化学物質のオゾン(ozone、)に掛けていると思うのだが、本書では一切触れられていなかった。
第6章 マーケティングの生産性の測定指標
5Aフレームワークに沿って考えると、マーケティングの生産性の測定指標も変わってくる。
測定する価値が出てくるのは、
の2つだ。
詳細は本書を読んでほしいが、この2つの指標を用いることで、カスタマー・ジャーニーの適切な段階で、
- 誘引力を高める
- 好奇心を最適化する
- コミットメントを強化する
などのマーケティング戦略・戦術を打つことができる。
すなわち、顧客が次の段階に進むのを妨げる隠れた問題の解決を目指すことができるようになるのだ。
第7章 産業類型とベスト・プラクティス
5Aフレームワークを分析し、各段階のコンバージョン率を評価すると4つの主なパターンが浮かび上がってくる。
- ドアノブ型
- 金魚型
- トランペット型
- 漏斗型
これらのパターンは、それぞれ異なる産業類型を代表しており、それぞれが特定の顧客行動モデルと固有の課題を有している。
第3部 デジタル経済におけるマーケティングの戦術的応用
第8章 ブランドの誘引力を高める人間中心のマーケティング
ブランドの誘因力を高めるためには重要なことが2つある。
1つは、デジタル人類学によって顧客の人間としての側面を理解することだ。
具体的には、
- ソーシャル・リスニング
- ネトノグラフィー
- 共感的リサーチ
などの手法がある。
そして、2つめは、ブランド自身が顧客を引き付けることができる人間的側面を有し、それを公にすることだ。
ブランドが備えるべき人間特性は6つある。
- 身体的魅力
- 知性
- 社交性
- 感情性
- パーソナビリティ
- 道徳性
第9章 ブランドへの好奇心をかき立てるコンテンツ・マーケティング
コンテンツ・マーケティングとは、
コンテンツに関するカンバセーションを生み出すために、明確に限定されたオーディエンス・グループにとって興味があり、適切で、役に立つコンテンツを、制作、編集、配信、拡散することをともなうマーケティング手法
である。
コンテンツ・マーケティングは、8つの段階を持つ。
- 目標設定
- オーディエンス・マッピング
- コンテンツの構想とプランニング
- コンテンツの制作
- コンテンツの配信
- コンテンツの拡散
- コンテンツ・マーケティングの評価
- コンテンツ・マーケティングの改善
第10章 ブランド・コミットメントを生み出すオムニチャネル・マーケティング
オムニチャネル・マーケティングとは、ショールーミングやウェブルーミングに代表されるように、
さまざまなチャネルを統合して、シームレスで一貫性のある顧客体験を生み出す手法である
オムニチャネル・マーケティングの急成長は最近のトレンドになっていて、
- ナウ・エコノミーにおけるモバイル・コマースへの集中
- オフライン・チャネルにおけるウェブルーミング
- オンライン・チャネルにおけるショールーミング
などがある。
そして、このような優れたオムニチャネル・マーケティング戦略を構築するためには以下の手順を踏む必要がある。
- カスタマー・ジャーニー全体に、考えられるすべてのタッチポイントとチャネルをマッピングする
- 最も重要なタッチポイントとチャネルを特定する
- 最も重要なタッチポイントとチャネルを改善、統合する
第11章 ブランド・アフィニティを築くためのエンゲージメント・マーケティング
初回購入者を忠実な推奨者にコンバートするためには、一連の顧客エンゲージメント活動が必要になる。
デジタル時代にエンゲージメントを強化できる一般的な手法は、以下の3つだ。
- モバイル・アプリでデジタル経験を高める
- ソーシャルCRMでソリューションを提供する
- ゲーミフィケーションで望ましい行動を促進する
まとめ
デジタル時代のマーケティングが程よくまとまっており、読みやすい本だった。
というのも自分自身、デジタル・ネイティブとイミグラントのはざま世代だが、例えば、オンラインとオフラインの話は、リアル店舗で品定めしてからネットで注文するなど身に覚えのある話だ。
また、5Aというカスタマー・ジャーニーについても、確かに最近はテレビのCMよりもSNS等から情報を仕入れ、口コミを調べてからモノを買う。
デジタル時代の顧客特性の話は、身をもってなるほどと思えた。
さらに、そうした時代にマーケターが行うべきは顧客自身に商品を推奨させることだという結論も納得できる。
事実、最近の企業や広告を振り返ると、バズらせようとしているんだろうなぁと思える動きも多い。
話が逸れるが大手広告代理店の電通は、5Aとよく似たAISASというフレームワークを提唱していたりする。
少し物足りないとすれば、実際の手法については説明が少なく紹介程度のものが多かった。
しかし、だからこそ分量も少なく、すっきりと読めるのだろう。
デジタル時代のマーケティングについて概観するには、良い本だ。