フィリップ・コトラー『コトラーのマーケティング3.0』大家コトラーが描く4PやSTPの先にあるマーケティングコンセプトとは?
マーケティングといえばコトラー、コトラーといえばマーケティングだ。
マーケティングを勉強しようとした人なら誰しも、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』に出会い、その分厚さに辟易としたはずだ。
言わずもがな、私自身も『マーケティング・マネジメント』に出会い、購入し、無事に本棚の肥やしになっている。
何度か読もうと挑戦しているのだが…
そんなマーケティングの大家コトラーが、2010年に新しい本を出したというではないか。
その名も『コトラーのマーケティング3.0』だ。
『マーケティング・マネジメント』、つまりはマーケティング2.0以前を読み終わっていないので、いささか気が引けるが、さっそく読んでみることにした。
実際に読んでみて、内容をまとめたので、これから読もうかと考えている人は参考にしてほしい。
ちなみに、既に『コトラーのマーケティング4.0』が出ているが、本書の新版というわけではない。
マーケティング4.0は、3.0に続く新たなコンセプトとなるので異なるものだ。
どちらから読んでも問題ないので、『マーケティング4.0』のまとめも参考にしてほしい。
指標
- テーマ:マーケティング
- 文章量:少なめ
- 内 容:普通
- 行 間:普通
- 推薦度:★★☆☆☆
内容
はじめに
第1部 トレンド
第1章 マーケティング3.0へようこそ
まず、本書の題名でもあるマーケティング3.0に至るまでを振り返っている。
マーケティング1.0とは、
工場から生み出される製品をすべての潜在的購買者に売り込むこと
で、マーケティング2.0とは、
市場をセグメント化し、特定の標的市場に向けて他社より優れた製品を開発しなければならない
とする消費者志向の段階の見方のことだ。
そして、マーケティング3.0とは、
人びとを単に消費者とみなすのではなく、マインドとハートを精神を持つ全人類的存在ととらえて彼らに働きかける
こととしている。
これは、消費者の満足を狙うところはマーケティング2.0と同じだが、
より大きなミッションやビジョンや価値を持ち、世界に貢献することを目指している
では、なぜマーケティング3.0に向かっていかなければならないのか?
それは、そうしなければならないビジネス状況を形づくる3つの重要な力が存在するからだ。
- 参加の時代
まず、人びとがニュースや考えや娯楽を消費するだけでなく、それらを創造する参加の時代がやってくる。
こうなると企業は、製品開発やコミュニケーションに消費者を参加させ、協働していくという協働マーケティングを行っていかなければならない。
- グローバル化のパラドックスの時代
次に、グローバル化により全世界が明るみに出たことで、逆にローカルな事柄やナショナリズムが際立つというグローバル化のパラドックスの時代がやってくる。
多くの人が不安を感じており、グローバルとローカルの対立する価値を同時に抱いている。
このとき企業には、継続性や繋がりや目的を提供し、文化的課題に取り組んでいるとアピールする文化マーケティングが必要になる。
- クリエイティブ社会の時代
最後に、精神的欲求が生存欲求にますます取って代わるクリエイティブ社会の時代だ。
人びとは、
自分たちのニーズを満たす製品やサービスだけでなく、自分たちの精神を感動させる経験やビジネスモデルも求めている
企業には、精神に訴えかけるスピリチュアル・マーケティングが必要になる。
第2章 マーケティング3.0の将来モデル
ニール・ボーデンは、1950年代にマーケティング・ミックスという言葉を生みだした。
ジェローム・マッカーシーは、1960年代に4Pという枠組みを打ち出した。
その後、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングなどの戦略を含む顧客管理の考え方が導入されていった。
そして、これからは以下の3つの事柄が企業が成功する鍵となり、マーケティングの基盤になると説明している。
- 4Pは、共創に取って代わられる
これまでは企業が顧客を分析しマーケティング・ミックスを考えるという構図だったものが、
互いに繋がっている企業や消費者、供給業者やチャネル・パートナーが、協働によって製品や経験価値を創造する
ようになるのだ。
- STPは、コミュニティ化に取って代わられる
同じように、セグメンテーションというものは、これまでは企業が決めていた。
しかし、テクノロジーにより消費者は、自分たちにとって価値のある集まりとしてコミュニティをつくるようになった。
企業は、このコミュニティの価値を壊すことなく、逆らうことなく、コミュニティのメンバーに有用な形で活動に参加していかなければならない。
- ブランド構築は、キャラクターの構築に取って代わられる
これからは、ブランドはより色濃いDNAを持たなければならない。
すなわち、企業やブランドは一貫した主張を持ち、そのキャラに矛盾のない形で経験価値を提供していかなければならないのだ。
スティーブン・コビーによれば人間は基本的に、
- 肉体
- 独自の思考や分析を行えるマインド
- 感情を感じることのできるハート
- その人がその人であることの核となる精神
から構成されている。
これまでマーケティングは、人間のマインド、そしてハートへと訴えかけてきた。
これから、すなわちマーケティン3.0では、人間の精神に訴えかける段階へと進化しなければならない。
そこで、ブランドとポジショニングと差別化をうまくバランスさせるために3iというコンセプトを導入する。
- brand identity
- brand integrity
- brand image
この3iというフレームワーク、なかなかにわかりにくいので、ここでは詳細は省く。
以下のサイト等を参考にしてほしい。
「3i」モデルと2つの軸から考えるブランドの構成要素 | KOBIT
第2部 戦略
第2部では各ステークホルダー、すなわち、
- 消費者
- 社員
- チャネル・パートナー
- 株主
に対して、どのようなマーケティングを行っていけばよいのかを説明している。
内容は章のタイトルの通りなので割愛する。
- 第3章 消費者に対するミッションのマーケティング
- 第4章 社員に対する価値のマーケティング
- 第5章 チャネル・パートナーに対する価値のマーケティング
- 第6章 株主に対するビジョンのマーケティング
第3部 応用
(以下、省略)
- 第7章 社会文化的変化の創出
- 第8章 新興市場における起業家の創造
- 第9章 環境の持続可能性に対する取り組み
- 第10章 まとめ
まとめ
推薦度を星2つにしたように、残念ながらしっくりこなかった。理由は2つある。
まず、肝心の3iモデルの説明が足りない。よくわからない。
マーケティング3.0では、ハートに加えて精神に訴えかけるべしとしているが、そもそもハートと精神はどう違うのか、なんとなく違いはわかるが、なんとなくでしかわからない。
そして、3iモデルについてもフレームワークっぽくはなっているが、なんとなく三角形に並べているようにしか見えなかった。
読んだ後にググってみてようやく理解できるレベルで、本書の中だけで理解するのは難しいのではないだろうか?
次に、本書のテーマ、ないし全体の結論が、日本にはあまりなじみのない社会貢献であり、実感が湧かなかった。
例えば、諸外国では、セレブが奉仕活動に参加したり寄付をしたり、そういった社会問題に言及することがステータスだと聞く。大学も卒業生からの寄付による部分が大きいと聞く。
結局、企業もそこを目指すべきだというのが本書のテーマだと読み取ったのだが、いかんせん日本では馴染みのない文化であり、自分自身まだその域まで達していない。
だからこそ、一読の価値ありと言えなくもないが、個人的には薦めるなら本書の続編『コトラーのマーケティング4.0』を推したい。