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ピーター M センゲ『学習する組織――システム思考で未来を創造する』重要なのはシステムとして捉えること、世界はそんなに単純じゃない

21世紀になっても世界には問題が溢れている。

世界規模でも企業レベルでも個人的なものでも、なかなか問題が解決しないのは、それが複雑だからだ。

複雑というのは、すなわち、誰か1人を悪者と断定できないということだ。

わかりやすいのは戦争だろうが、どちらもそれぞれの正義で戦っている。

大方の問題は、Aという問題に対してBという直接的原因があるが、Bを辞められない構造があるから問題なのだ

このような考え方を説いているのが『学習する組織』だ。

ちなみに、本書の邦題は『学習する組織――システム思考で未来を創造する』だが、原題は『The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization』だ。

The Fifth Disciplineとは、すなわちシステム思考、冒頭で説明した考え方なのだが、邦題と原題で位置が逆だ。

個人的には、原題が好きだ。この本は組織論ではなく、システム思考という考え方についての本だと思う。

学習する組織――システム思考で未来を創造する

学習する組織――システム思考で未来を創造する

  • 作者: ピーター M センゲ,Peter M. Senge,枝廣淳子,小田理一郎,中小路佳代子
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2011/06/22
  • メディア: 単行本
  • 購入: 3人 クリック: 89回
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さぁ、読んでみたくなっただろう。

しかし、本書は考え方を扱った本なので、抽象的な話も多い。

さらに困ったことにシステム思考実践者のインタビューを以て、システム思考の正しさを主張する部分が多く、わかりにくい。

そこで、実際に読んでみて簡単に内容をまとめたので、読む際には参考にしてほしい。

ぜひ、システム思考を理解し、身につけて、普段より一歩踏み込んだ考え方を手に入れてほしい。

指標

  • テーマ:組織/思考法
  • 文章量:多め
  • 内 容:普通
  • 行 間:事例ベースで帰納的
  • 推薦度:★★☆☆☆

内容

第I部 いかに私たち自身の行動が私たちの現実を生み出すか……そして私たちはいかにそれを変えられるか

まずは問題提起と概要説明から始まる。

第1章 「われに支点を与えよ。さらば片手で世界を動かさん」

世界はより繋がり、ビジネスはより複雑になっていく。
それに耐えうる組織とは、あらゆるレベルで学習をする組織だ。

そして、学習する組織に必要な要素技術が列挙される。

  • システム思考
  • 自己マスタリー
  • メンタル・モデル
  • 共有ビジョン
  • チーム学習
第2章 あなたの組織は学習障害を抱えていないか?

組織の学習を妨げる状況、いくつかのあるあるを説明している。

  1. 「私の仕事は○○だから」
  2. 「悪いのはあちら」
  3. 先制攻撃の幻想
  4. 出来事への執着
  5. ゆでガエルの寓話
  6. 「経験から学ぶ」という幻想
  7. 経営陣の神話
第3章 システムの呪縛か、私たち自身の考え方の呪縛か?

いわゆるビールゲームの例で、システムとして考えることの重要性を説明している。

登場人物それぞれは、誰も他の人を貶めようと考えているわけではない。
それでもビールゲームというシステムのせいで問題が起きてしまう。

システムの構造まで切り込まない限り、そもそもの原因に対処することはできないのだ。

第II部 システム思考――「学習する組織」の要

ここから副題でもある Fifth Discipline=システム思考の話が始まる。

第4章 システム思考の法則

法則は11個ある。

  1. 今日の問題は昨日の「解決策」から生まれる
  2. 強く押せば押すほど、システムが強く押し返してくる
  3. 挙動は、悪くなる前に良くなる
  4. 安易な出口はたいてい元の場所への入り口に通じる
  5. 治療が病気よりも手に負えないこともある
  6. 急がば回れ
  7. 原因と結果は、時間的にも空間的にも近くにあるわけではない
  8. 小さな変化が大きな結果を生み出す可能性がある――が、最もレバレッジの高いところは往々にして最もわかりにくい
  9. ケーキを持っていることもできるし、食べることもできる――が、今すぐではない
  10. 1頭のゾウを半分に分けても、2頭の小さなゾウにはならない
  11. 誰も悪くはない
第5章 意識の変容

因果関係の環に目を向けなければならないと説明している。

ある行動が単に結果に繋がるというような線形な視点では世界を全体として捉えることはできない。

センゲは『環』と表現しているが、どちらかというと安定/不安定な極値近くの運動に似ていると感じた。

安定な極値では、極値からのズレにより元に戻ろうとする力が掛かる。
不安定な極値では、ズレがさらにズレを生む。

単なる比例ではなく、そういった構造が効いてくるのだ。

第6章 「自然」の型―出来事を制御する型を特定する

5章ででてきたようなシステムの構造を『型』と呼ぶ。
ここでは2つの型を紹介している。

  1. 成長の限界
  2. 問題のすり替わり
第7章 自己限定的な成長か、自律的な成長か

限られた成長ではなく、さらなる成長を求めるならば、それを妨げるシステムの肝を叩かなければならない。

根底にある構造を捉え、見抜くことがシステム思考の強みだと説明している。

第III部 核となるディシプリン――「学習する組織」の構築

残り4つの説明だ。

第8章 自己マスタリー

自己マスタリーとは、端的に言うと自分に正直に生きることだ。

しかたなくという強制ではダメで、やりたいからやるという内発的な動機で人生や仕事に取り組んでいなければならない。

この理想像を個人ビジョンと呼ぶ。

個人ビジョンと現実の乖離を正直に認めると、それは創造的緊張を生み、成長へのエネルギー源となる。

ただし、あくまでも内発的な動機に基づくことから強制することはできない。
リーダにできることは、環境を整えたり模範たることだけだ。

第9章 メンタル・モデル

いわゆる思い込み、固定観念はやめようという話だ。

世界はこういうものだという頭の中のイメージに切り込むことで、気付きや振り返りが促されていく。

また、探求と主張のバランスが大切だと説明している。

確かに自らの主張を相手に伝え認めさせることは重要だが、同時に話の前提が正しいのかを追い求めることも重要だ。

そして、合意に至らずとも、そのプロセスがうまくいけば結果に繋がるのだ。

第10章 共有ビジョン

共有ビジョンとは、自分たちは何をしたいかという問いに対する答えだ。
個人ビジョンの全体バージョンと捉えていいと思う。

ただし、形式的なものではダメで、真に共有されていなければならない。
むしろ個人ビジョンの総合としてあるべきだと説明している。

第11章 チーム学習

チーム学習とは、チームの能力を揃えながら伸ばしていくプロセスだ。

そのためにディスカッションではなく、ダイアログという手法を提案している。

第IV部 実践からの振り返り

ここからは少し毛色が変わる。
システム思考を実践してみてどうだったという話が始まる。

第12章 基盤

学習する組織の考え方が、世の中や経営に深く入り込んだ道筋に焦点を当てている。

第13章 推進力

学習する組織の構築という困難な課題に取り組んだその動機に焦点を当てている。

第14章 戦略

学習する組織を構築するうえで、つくりあげるべき構造を説明している。

第15章 リーダーの新しい仕事

学習する組織の構築は困難であるがゆえに必要となるリーダーシップを説明している。

第16章 システム市民

地球規模で私たち自身がシステムであると自覚して生きることの大切さを説いている。

第17章 「学習する組織」の最前線

学習する組織、またはそれ以上の何かが生まれているというセンゲさんの期待感を説明している。

第V部 結び

第18章 分かたれることのない全体

まとめ。

まとめ

冒頭にも書いたが、正直なところわかりにくい本だった。

説明に事例を出すのは構わないが、それから何がわかったかという結論の部分まで事例に出てくる人物のコメントで表現されている。

コメントベースだと様々なバイアスが入り込んでそうだし、いちいち社長が~代表が~と入るので権威主義にも見える

ただ、それでもなおシステム思考という考え方自体はおもしろかった

理論と実践で大きく異なるのは、その複雑性だろう。

何かを変えようと思うとき、構造を見極めること、表面的な箇所ではなく根本的な箇所を押さえることは重要だ。

事例ベース、コメントベースでの話が平気な人であれば読んでみてもいいと思う。