安藤昌也『UXデザインの教科書』基礎から応用まで概観できるスタートに最適な1冊
今や仕事でもプライベートでもITは欠かせないものになっている。
私たちが業務システムでもWebサイトでも、はたまたスマホのアプリでも、それらを使うときに対面するのがUI、すなわちユーザーインターフェースだ。
UIは、人間と機械の接点(インターフェース)となるので、もちろんUIがイケてないと、人間は「このシステムは使いにくい」と認識する。
サービサー目線で考えると、UIがイケてないと、使いにくいと判断されアプリの利用率が下がってしまう。死活問題だ。
確かに、このようにUIはとても重要だが、果たしてそれだけだろうか?
例えば、ECサイトの場合、サイトがとても使いやすくても、注文した品が全然届かなかったり、問い合わせの回答が酷かったりすれば、そのサービス全体は使いにくいものとなってしまう。
ここで登場するのがUX、すなわちユーザーエクスペリエンス、体験価値だ。
UIだけに留まらず、サービス全体としての使いやすさ、サービス全体のユーザビリティーを表した概念がUXであり、サービス向上にはUXの向上が必要となる。
そんなUXの向上、すなわち、UXをどうデザインしていけばよいかを解説したのが『UXデザインの教科書』だ。
さぁ、読んでみたくなっただろう。
UX、またはUI・UXの本は巷に溢れているが、どうもWebシステム、またはスマホなどシステムの画面に閉じた話が多いように思える。
一方、本書は、私が実際に読んでまとめた内容を見てもらえばわかる通り、基礎知識から始まり、応用テクニックや実際のプロジェクトの進め方まで一通り網羅している。
流石は「教科書」と銘打っているだけある。
ぜひ、UXの神髄を体系的に頭の中に収めてほしい。
指標
- テーマ:UX/デザイン
- 文章量:少なめ
- 内 容:易しい
- 行 間:普通
- 推薦度:★★★★☆
内容
1 概要
概要の説明から始まるが、UX自体のというよりUXが生まれた背景や歴史がメインだ。
後半には具体例としてタイプの異なる3つの適用パターンが紹介されている。
- 1.1 UXデザインが求められる背景
- 1.2 ユーザーを重視したデザインの歴史
- 1.3 UXデザインが目指すもの
2 基礎知識
ここからが本番。
2章は基礎理論、3、4章と進むにつれて実践的な内容になっていく。
2.1 UXデザインの要素と関係性
UXデザインを構成する各要素、コンセプトを概観している。
登場人物としては、
- ユーザ
- 製品・サービス
- ビジネス
の3つでありUXデザインは、
- デザインの対象領域もろもろからくる情報
- ビジネスとして捉えたときの情報
- デザインについての諸理論
をインプットに、
- 体験価値
- 利用文脈
- 製品・サービス
- ビジネス
を考えねばならぬ、と説明している。
2.2 ユーザー体験
ユーザー体験といっても(主に)時系列的にいくつかの種類がある。
例えば、楽しみだなぁと体験する前に思うことも、それは予期的UXというものに含まれることになる。
そして、そんな一連の価値がどのようにユーザーの体験価値に繋がっていくかを説明している。
なぜそこまで体験価値に注目するかというと、それは本質的ニーズを捉えるためだ。
2.3 利用文脈
利用文脈とは、ユーザーと製品・サービスとの関わりであると説明している。
製品を使う状況や目的によって話は変わってくるぞ、という話。
2.4 ユーザビリティ、利用品質
ユーザビリティは、体験価値がユーザーの主体的な想いであるのに対し、製品自体の性質だと対比されている。
2.5 人間中心デザインプロセス
ここで話が少し変わり、では実際にUXデザインをどう進めていくかという内容になる。
UXデザインはHCDと同義ではないが、HCDプロセスの考え方を活用してデザインに取り組んでいく。
と、書かれているとおり厳密には異なるのかもしれないが、UXデザインに通じるものとして人間中心デザイン(HCD)のプロセスを説明している。
2.8や3、4章がより実践的な方法の紹介であるのに対し、ここでは少し抽象的で理論的な内容になっている。
2.6 認知工学、人間工学、感性工学
デザインに関連する諸分野の紹介、説明だ。
2.7 ガイドライン、デザインパターン
ガイドライン、パターン、ルール、指針、言葉は何でもいいのだけど、デザインに関するそういったものを紹介してある。
2.8 UXデザイン
以上の要件を満たすように、実際にどうUXデザインを進めていくかを説明してある。
2.5よりは実践的で、3、4章の導入にあたる。
3 プロセス
2.8で提示されたUXデザインに関する実践的な一連のプロセスに対し、各プロセスの詳細を説明している。
- 3.1 利用文脈とユーザー体験の把握
- 3.2 ユーザー体験のモデル化と体験価値の探索
- 3.3 アイデアの発想とコンセプトの作成
- 3.4 実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化
- 3.5 プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化
- 3.6 実装レベルの制作物によるユーザー体験の評価
- 3.7 体験価値の伝達と保持のための基盤の整備
- 3.8 プロセスの実践と簡易化
4 手法
3章は各プロセスの説明がメインで、その具体的なイメージとしていくつかの手法を登場させた。逆に、4章ではプロセスで使用される手法自体に焦点を置いている。
- 4.1 本章で解説する手法
- 4.2 「①利用文脈とユーザー体験の把握」の中心的な手法
- 4.3 「①利用文脈とユーザー体験の把握」の諸手法
- 4.4 「②ユーザー体験のモデル化と価値体験の探索」の中心的な手法
- 4.5 「②ユーザー体験のモデル化と価値体験の探索」の諸手法
- 4.6 「③アイデアの発想とコンセプトの作成」の中心的な手法
- 4.7 「④実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化」の中心的な手法
- 4.8 「④実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化」の諸手法
- 4.9 「⑤プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化」の諸手法
- 4.10 「⑤プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化」の諸手法
- 4.11 「⑥実装レベルの制作物によるユーザー体験の評価」の諸手法
- 4.12 「⑦体験価値の伝達と保持のための指針の作成」の文献紹介
まとめ
教科書と銘打っているだけあって、良くも悪くも教科書である。
概要、理論、実践と順序だって幅広く、わかりやすくまとめられている。
余談になるが、非常に論文じみたこの構成、やはり著者が研究者だからだろうか。
UXについて概観するにはとてもいい本だが、それ以上を求めるとより詳細な理解や実践が必要になるなと思えたのも否めない。
UXは、よくUIとセットにされがちだが、決してシステムの画面やら狭義のデザインやらに閉じた話ではない。
むしろ、経営戦略というトップダウンに対し、ユーザー層からのボトムアップとしてビジネスを形づくる双璧となりえるものだと感じた。
各コンセプトに関して、もう少しつっこんだ本も読んでみたい。