スティーブン P.ロビンス『組織行動のマネジメント』個人、組織の中の個人、組織の中の組織、人って本当に複雑だ
人間とは、本当に複雑な生き物だ。
論理的に考えると思いきや、感情に支配されたりと、人の行動は様々な要因に影響を受ける。
しかも、個人のパーソナリティーに加えて、組織の中の1人、組織の中の組織では、また特性が変わってくるときている。
冗談ではない。
しかし、組織としては、組織の目的を達成するために組織のメンバーに頑張ってもらわなければならない。
例え、働きたくないと思っている人でも、なんとか働いてもらわないと困るのだ。
人類は、なんとか人の行動をマネジメントしようと、組織行動論を発展させてきた。
その組織行動論の知見をわかりやすく概観できるのが本書『【新版】組織行動のマネジメント』だ。
- 作者: スティーブン P.ロビンス,?木晴夫
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2009/12/11
- メディア: 単行本
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さぁ、読んでみたくなっただろう。
実際に読んでみて内容をまとめてみたが、本当にバランスよくまとまっている。
ぜひ、本書を通して、なぜ自分の所属する組織が今の構造なのか、今の制度があるのかを理解してほしい。
指標
- テーマ:組織
- 文章量:普通
- 内 容:普通
- 行 間:普通
- 推薦度:★★★★☆
内容
第Ⅰ部 組織行動学への招待
第1章 組織行動学とは何か
簡単なイントロダクションだ。組織行動学の定義から始まる。
組織内で人々が示す行動や態度についての体系的な学問
組織行動学は応用分野であるため、心理学、社会学、社会心理学、人類学、政治科学などがベースになっている。
そして、組織行動学の目的は人間の行動を、
- 説明すること
- 予測すること
- 統制すること
だ。
第Ⅱ部 組織の中の個人
まず、組織自体ではなく組織の中にいる個人に注目する。
第2章 個人の行動の基礎
個人の行動を理解するうえで必要な心理学の話だ。
- 価値観
- 態度(職務満足感)
- 認知
- 学習
といった概念を説明している。
第3章 パーソナリティと感情
次に特定の個人をどう捉えるかという話だ。
例えば、パーソナリティについてはマイヤーズ・ブリッグスの性格タイプ・インデックスがある。性格を「INTJ」等の英字4文字で表すものだ。
しかし、実は有効性を裏付ける証拠はないらしい。
本書では代替として、パーソナリティの五要素モデルを紹介している。
他にも、ローカス・オブ・コントロール、マキャベリズム、自尊感情、自己監視性、リスク志向、タイプAパーソナリティなどいろいろな概念が登場する。
後半は感情についての話だ。
第4章 動機づけの基本的なコンセプト
第Ⅱ部の山場だろう。よく聞く話がどんどん登場する。
動機付け、すなわち、どうやったら人はやる気を出すかという話。
まず、マズローの欲求五段階論、X理論とY理論、二要因論を説明している。
しかし、これらの古典的な話は綿密な調査には耐えられない。
最新の理論としては、人は達成欲求、権力欲求、親和欲求のいずれかにより行動を起こすというマクレランドの欲求理論がある。
他にも目標設定理論、強化理論、職務設計理論、公平理論、期待理論などを説明している。
第5章 動機づけ:コンセプトから応用へ
実際にどういった方法で従業員のモチベーションを上げ、行動を修正していくかという話。
第6章 個人の意思決定
個人の行動の中で、特に何かを決めるときの話。
まずは、合理的な意思決定プロセスから始まる。
しかし、結局は様々なバイアスや個人差が入り込んでしまう。
第Ⅲ部 組織の中の集団
いよいよ個人が集まり集団となると、という話だ。
第7章 集団行動の基礎
本書では集団を、
特定の目的を達成するために集まった、互いに影響を与え合い依存し合う複数の人々
と定義している。
そして集団は、
- コマンド・グループ
- タスク・グループ
- 利益集団
- 友好集団
に分かれる。
本章では、ホーソン研究やアッシュ研究など集団の中のメンバーとしての行動、およびグループシンクやグループシフトなど集団全体の行動について説明している。
第8章 “チーム”を理解する
集団の中でも特にチームは特別な形だ。
単なるグループの業績はメンバーの貢献の総和となる。
しかし、チームはメンバー同士がシナジーを生み、その業績は総和以上となる。
チームには、
- 問題解決型
- 自己管理型
- 機能横断型
- バーチャル・チーム
などがある。
第9章 コミュニケーション
やはり集団にはコミュニケーションが不可欠である。
その役割には、
- 統制
- 動機付け
- 感情表現
- 情報伝達
などがあげられる。
第10章 リーダーシップと信頼の構築
第Ⅲ部の山場、リーダーシップの話だ。
最初は特性理論、すなわちリーダーシップを発揮する人には何か特別な性質があるのではないかという考え方が主流だった。
次第に行動理論、すなわちリーダーシップには特定の行動が伴っているのではないかという考え方に移る。
そして最近は、条件適合(コンティンジェンシー)理論らしい。
これは、Aという状況にはXのような人が、Bという状況にはYのような人が、と、まさに条件に適合した人が力を発揮するという考え方だ。
フィードラー理論、リーダー・メンバー交換理論、パス・ゴール理論、リーダー参加型理論を説明している。
そして後半では、前半の業務処理型と対比して、カリスマ的リーダーシップについても説明している。
第11章 力(パワー)と政治
本書では力を、
AがBの行動に影響を与え、AがそうさせなければしなかったであろうことをBにさせる能力
と定義している。
力の源泉には公式のものと個人によるものがあるようだ。
後半では力による依存、ハラスメント、連合、政治などが説明されている。
第12章 コンフリクトと交渉
もともと伝統的見解では、コンフリクトは悪であった。
しかし、コンフリクトは避けられないがゆえに受け入れるべきだという人間関係論的見解もある。
そして生産的コンフリクトに限り奨励すべきであるとする相互作用論的見解がある。
後半は、交渉の話だ。
第Ⅳ部 組織のシステム
最後は集団というよりは組織の話だ。
第13章 組織構造の基礎
よくある組織構造の話。
- シンプル構造
- 官僚制
- マトリックス組織
以上に加えて新しめの組織構造、
- チーム構造
- バーチャル組織
- バウンダリーレス組織
も説明している。
第14章 組織文化
7つの要因で特徴付けられる組織文化は集団行動の予測に使うことができる。
第15章 人材管理の考え方と方法
採用から始まり、研修・開発プログラム、業績評価について説明している。
第16章 組織変革と組織開発
組織を変えていくという話だが、そもそも組織をどう捉えるのか。
- 時たま嵐にも出会うが基本的には静かに海を渡る大きな船
-
あちこちに障害物があり急流が続く川を下るいかだ
という2つの考え方がある。
まとめ
組織行動論の教科書としてはピカイチだと思った。
会社組織を考えていく中で知っておくべき知識が本当にバランス良く載っている。
ただし、もちろん全ての教科書に共通することとして、もっと深い議論があるのだろうなと感じる箇所は少なくなかった。
著者の主張が書いてあるというよりは、色々な知識や考え方が羅列してある入門書だ。
総括としては、個々のテーマについては別の専門書を読むとして、まず頭の中に地図を描くにはいい本だろう。
そして、いかんせんテーマが身近なだけに学んだことを応用する機会もありそうで、そういった意味でもおもしろかった。
このくらいの基礎知識はしっかりと頭に入れておきたいものである。