仕事のためにビジネスを識る

よりよいビジネス書に出会えるための指南書

スティーブン P.ロビンス『組織行動のマネジメント』個人、組織の中の個人、組織の中の組織、人って本当に複雑だ

人間とは、本当に複雑な生き物だ。

論理的に考えると思いきや、感情に支配されたりと、人の行動は様々な要因に影響を受ける。

しかも、個人のパーソナリティーに加えて、組織の中の1人、組織の中の組織では、また特性が変わってくるときている。

冗談ではない。

しかし、組織としては、組織の目的を達成するために組織のメンバーに頑張ってもらわなければならない。

例え、働きたくないと思っている人でも、なんとか働いてもらわないと困るのだ。

人類は、なんとか人の行動をマネジメントしようと、組織行動論を発展させてきた。

その組織行動論の知見をわかりやすく概観できるのが本書『【新版】組織行動のマネジメント』だ。

【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ

【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ

 

さぁ、読んでみたくなっただろう。

実際に読んでみて内容をまとめてみたが、本当にバランスよくまとまっている。

ぜひ、本書を通して、なぜ自分の所属する組織が今の構造なのか、今の制度があるのかを理解してほしい。

指標

  • テーマ:組織
  • 文章量:普通
  • 内 容:普通
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★☆

内容

第Ⅰ部 組織行動学への招待

第1章 組織行動学とは何か

簡単なイントロダクションだ。組織行動学の定義から始まる。

組織内で人々が示す行動や態度についての体系的な学問

組織行動学は応用分野であるため、心理学、社会学、社会心理学、人類学、政治科学などがベースになっている。

そして、組織行動学の目的は人間の行動を、

  • 説明すること
  • 予測すること
  • 統制すること

だ。

第Ⅱ部 組織の中の個人

まず、組織自体ではなく組織の中にいる個人に注目する。

第2章 個人の行動の基礎

個人の行動を理解するうえで必要な心理学の話だ。

  • 価値観
  • 態度(職務満足感)
  • 認知
  • 学習

といった概念を説明している。

第3章 パーソナリティと感情

次に特定の個人をどう捉えるかという話だ。

例えば、パーソナリティについてはマイヤーズ・ブリッグスの性格タイプ・インデックスがある。性格を「INTJ」等の英字4文字で表すものだ。

しかし、実は有効性を裏付ける証拠はないらしい。

本書では代替として、パーソナリティの五要素モデルを紹介している。

他にも、ローカス・オブ・コントロール、マキャベリズム、自尊感情、自己監視性、リスク志向、タイプAパーソナリティなどいろいろな概念が登場する。

後半は感情についての話だ。

第4章 動機づけの基本的なコンセプト

第Ⅱ部の山場だろう。よく聞く話がどんどん登場する。

動機付け、すなわち、どうやったら人はやる気を出すかという話。

まず、マズローの欲求五段階論、X理論とY理論、二要因論を説明している。

しかし、これらの古典的な話は綿密な調査には耐えられない。

最新の理論としては、人は達成欲求、権力欲求、親和欲求のいずれかにより行動を起こすというマクレランドの欲求理論がある。

他にも目標設定理論、強化理論、職務設計理論、公平理論、期待理論などを説明している。

第5章 動機づけ:コンセプトから応用へ

実際にどういった方法で従業員のモチベーションを上げ、行動を修正していくかという話。

第6章 個人の意思決定

個人の行動の中で、特に何かを決めるときの話。

まずは、合理的な意思決定プロセスから始まる。

しかし、結局は様々なバイアスや個人差が入り込んでしまう。

第Ⅲ部 組織の中の集団

いよいよ個人が集まり集団となると、という話だ。

第7章 集団行動の基礎

本書では集団を、

特定の目的を達成するために集まった、互いに影響を与え合い依存し合う複数の人々

と定義している。

そして集団は、

  • コマンド・グループ
  • タスク・グループ
  • 利益集団
  • 友好集団

に分かれる。

本章では、ホーソン研究やアッシュ研究など集団の中のメンバーとしての行動、およびグループシンクやグループシフトなど集団全体の行動について説明している。

第8章 “チーム”を理解する

集団の中でも特にチームは特別な形だ。

単なるグループの業績はメンバーの貢献の総和となる。

しかし、チームはメンバー同士がシナジーを生み、その業績は総和以上となる。

チームには、

  • 問題解決型
  • 自己管理型
  • 機能横断型
  • バーチャル・チーム

などがある。

第9章 コミュニケーション

やはり集団にはコミュニケーションが不可欠である。

その役割には、

  • 統制
  • 動機付け
  • 感情表現
  • 情報伝達

などがあげられる。

第10章 リーダーシップと信頼の構築

第Ⅲ部の山場、リーダーシップの話だ。

最初は特性理論、すなわちリーダーシップを発揮する人には何か特別な性質があるのではないかという考え方が主流だった。

次第に行動理論、すなわちリーダーシップには特定の行動が伴っているのではないかという考え方に移る。

そして最近は、条件適合(コンティンジェンシー)理論らしい。

これは、Aという状況にはXのような人が、Bという状況にはYのような人が、と、まさに条件に適合した人が力を発揮するという考え方だ。

フィードラー理論、リーダー・メンバー交換理論、パス・ゴール理論、リーダー参加型理論を説明している。

そして後半では、前半の業務処理型と対比して、カリスマ的リーダーシップについても説明している。

第11章 力(パワー)と政治

本書では力を、

AがBの行動に影響を与え、AがそうさせなければしなかったであろうことをBにさせる能力

と定義している。

力の源泉には公式のものと個人によるものがあるようだ。

後半では力による依存、ハラスメント、連合、政治などが説明されている。

第12章 コンフリクトと交渉

もともと伝統的見解では、コンフリクトは悪であった。

しかし、コンフリクトは避けられないがゆえに受け入れるべきだという人間関係論的見解もある。

そして生産的コンフリクトに限り奨励すべきであるとする相互作用論的見解がある。

後半は、交渉の話だ。

第Ⅳ部 組織のシステム

最後は集団というよりは組織の話だ。

第13章 組織構造の基礎

よくある組織構造の話。

  • シンプル構造
  • 官僚制
  • マトリックス組織

以上に加えて新しめの組織構造、

  • チーム構造
  • バーチャル組織
  • バウンダリーレス組織

も説明している。

第14章 組織文化

7つの要因で特徴付けられる組織文化は集団行動の予測に使うことができる。

第15章 人材管理の考え方と方法

採用から始まり、研修・開発プログラム、業績評価について説明している。

第16章 組織変革と組織開発

組織を変えていくという話だが、そもそも組織をどう捉えるのか。

  1. 時たま嵐にも出会うが基本的には静かに海を渡る大きな船
  2. あちこちに障害物があり急流が続く川を下るいかだ

という2つの考え方がある。

まとめ

組織行動論の教科書としてはピカイチだと思った。

会社組織を考えていく中で知っておくべき知識が本当にバランス良く載っている。

ただし、もちろん全ての教科書に共通することとして、もっと深い議論があるのだろうなと感じる箇所は少なくなかった。

著者の主張が書いてあるというよりは、色々な知識や考え方が羅列してある入門書だ。

総括としては、個々のテーマについては別の専門書を読むとして、まず頭の中に地図を描くにはいい本だろう

そして、いかんせんテーマが身近なだけに学んだことを応用する機会もありそうで、そういった意味でもおもしろかった。

このくらいの基礎知識はしっかりと頭に入れておきたいものである。

ピーター M センゲ『学習する組織――システム思考で未来を創造する』重要なのはシステムとして捉えること、世界はそんなに単純じゃない

21世紀になっても世界には問題が溢れている。

世界規模でも企業レベルでも個人的なものでも、なかなか問題が解決しないのは、それが複雑だからだ。

複雑というのは、すなわち、誰か1人を悪者と断定できないということだ。

わかりやすいのは戦争だろうが、どちらもそれぞれの正義で戦っている。

大方の問題は、Aという問題に対してBという直接的原因があるが、Bを辞められない構造があるから問題なのだ

このような考え方を説いているのが『学習する組織』だ。

ちなみに、本書の邦題は『学習する組織――システム思考で未来を創造する』だが、原題は『The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization』だ。

The Fifth Disciplineとは、すなわちシステム思考、冒頭で説明した考え方なのだが、邦題と原題で位置が逆だ。

個人的には、原題が好きだ。この本は組織論ではなく、システム思考という考え方についての本だと思う。

学習する組織――システム思考で未来を創造する

学習する組織――システム思考で未来を創造する

  • 作者: ピーター M センゲ,Peter M. Senge,枝廣淳子,小田理一郎,中小路佳代子
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2011/06/22
  • メディア: 単行本
  • 購入: 3人 クリック: 89回
  • この商品を含むブログ (37件) を見る
 

さぁ、読んでみたくなっただろう。

しかし、本書は考え方を扱った本なので、抽象的な話も多い。

さらに困ったことにシステム思考実践者のインタビューを以て、システム思考の正しさを主張する部分が多く、わかりにくい。

そこで、実際に読んでみて簡単に内容をまとめたので、読む際には参考にしてほしい。

ぜひ、システム思考を理解し、身につけて、普段より一歩踏み込んだ考え方を手に入れてほしい。

指標

  • テーマ:組織/思考法
  • 文章量:多め
  • 内 容:普通
  • 行 間:事例ベースで帰納的
  • 推薦度:★★☆☆☆

内容

第I部 いかに私たち自身の行動が私たちの現実を生み出すか……そして私たちはいかにそれを変えられるか

まずは問題提起と概要説明から始まる。

第1章 「われに支点を与えよ。さらば片手で世界を動かさん」

世界はより繋がり、ビジネスはより複雑になっていく。
それに耐えうる組織とは、あらゆるレベルで学習をする組織だ。

そして、学習する組織に必要な要素技術が列挙される。

  • システム思考
  • 自己マスタリー
  • メンタル・モデル
  • 共有ビジョン
  • チーム学習
第2章 あなたの組織は学習障害を抱えていないか?

組織の学習を妨げる状況、いくつかのあるあるを説明している。

  1. 「私の仕事は○○だから」
  2. 「悪いのはあちら」
  3. 先制攻撃の幻想
  4. 出来事への執着
  5. ゆでガエルの寓話
  6. 「経験から学ぶ」という幻想
  7. 経営陣の神話
第3章 システムの呪縛か、私たち自身の考え方の呪縛か?

いわゆるビールゲームの例で、システムとして考えることの重要性を説明している。

登場人物それぞれは、誰も他の人を貶めようと考えているわけではない。
それでもビールゲームというシステムのせいで問題が起きてしまう。

システムの構造まで切り込まない限り、そもそもの原因に対処することはできないのだ。

第II部 システム思考――「学習する組織」の要

ここから副題でもある Fifth Discipline=システム思考の話が始まる。

第4章 システム思考の法則

法則は11個ある。

  1. 今日の問題は昨日の「解決策」から生まれる
  2. 強く押せば押すほど、システムが強く押し返してくる
  3. 挙動は、悪くなる前に良くなる
  4. 安易な出口はたいてい元の場所への入り口に通じる
  5. 治療が病気よりも手に負えないこともある
  6. 急がば回れ
  7. 原因と結果は、時間的にも空間的にも近くにあるわけではない
  8. 小さな変化が大きな結果を生み出す可能性がある――が、最もレバレッジの高いところは往々にして最もわかりにくい
  9. ケーキを持っていることもできるし、食べることもできる――が、今すぐではない
  10. 1頭のゾウを半分に分けても、2頭の小さなゾウにはならない
  11. 誰も悪くはない
第5章 意識の変容

因果関係の環に目を向けなければならないと説明している。

ある行動が単に結果に繋がるというような線形な視点では世界を全体として捉えることはできない。

センゲは『環』と表現しているが、どちらかというと安定/不安定な極値近くの運動に似ていると感じた。

安定な極値では、極値からのズレにより元に戻ろうとする力が掛かる。
不安定な極値では、ズレがさらにズレを生む。

単なる比例ではなく、そういった構造が効いてくるのだ。

第6章 「自然」の型―出来事を制御する型を特定する

5章ででてきたようなシステムの構造を『型』と呼ぶ。
ここでは2つの型を紹介している。

  1. 成長の限界
  2. 問題のすり替わり
第7章 自己限定的な成長か、自律的な成長か

限られた成長ではなく、さらなる成長を求めるならば、それを妨げるシステムの肝を叩かなければならない。

根底にある構造を捉え、見抜くことがシステム思考の強みだと説明している。

第III部 核となるディシプリン――「学習する組織」の構築

残り4つの説明だ。

第8章 自己マスタリー

自己マスタリーとは、端的に言うと自分に正直に生きることだ。

しかたなくという強制ではダメで、やりたいからやるという内発的な動機で人生や仕事に取り組んでいなければならない。

この理想像を個人ビジョンと呼ぶ。

個人ビジョンと現実の乖離を正直に認めると、それは創造的緊張を生み、成長へのエネルギー源となる。

ただし、あくまでも内発的な動機に基づくことから強制することはできない。
リーダにできることは、環境を整えたり模範たることだけだ。

第9章 メンタル・モデル

いわゆる思い込み、固定観念はやめようという話だ。

世界はこういうものだという頭の中のイメージに切り込むことで、気付きや振り返りが促されていく。

また、探求と主張のバランスが大切だと説明している。

確かに自らの主張を相手に伝え認めさせることは重要だが、同時に話の前提が正しいのかを追い求めることも重要だ。

そして、合意に至らずとも、そのプロセスがうまくいけば結果に繋がるのだ。

第10章 共有ビジョン

共有ビジョンとは、自分たちは何をしたいかという問いに対する答えだ。
個人ビジョンの全体バージョンと捉えていいと思う。

ただし、形式的なものではダメで、真に共有されていなければならない。
むしろ個人ビジョンの総合としてあるべきだと説明している。

第11章 チーム学習

チーム学習とは、チームの能力を揃えながら伸ばしていくプロセスだ。

そのためにディスカッションではなく、ダイアログという手法を提案している。

第IV部 実践からの振り返り

ここからは少し毛色が変わる。
システム思考を実践してみてどうだったという話が始まる。

第12章 基盤

学習する組織の考え方が、世の中や経営に深く入り込んだ道筋に焦点を当てている。

第13章 推進力

学習する組織の構築という困難な課題に取り組んだその動機に焦点を当てている。

第14章 戦略

学習する組織を構築するうえで、つくりあげるべき構造を説明している。

第15章 リーダーの新しい仕事

学習する組織の構築は困難であるがゆえに必要となるリーダーシップを説明している。

第16章 システム市民

地球規模で私たち自身がシステムであると自覚して生きることの大切さを説いている。

第17章 「学習する組織」の最前線

学習する組織、またはそれ以上の何かが生まれているというセンゲさんの期待感を説明している。

第V部 結び

第18章 分かたれることのない全体

まとめ。

まとめ

冒頭にも書いたが、正直なところわかりにくい本だった。

説明に事例を出すのは構わないが、それから何がわかったかという結論の部分まで事例に出てくる人物のコメントで表現されている。

コメントベースだと様々なバイアスが入り込んでそうだし、いちいち社長が~代表が~と入るので権威主義にも見える

ただ、それでもなおシステム思考という考え方自体はおもしろかった

理論と実践で大きく異なるのは、その複雑性だろう。

何かを変えようと思うとき、構造を見極めること、表面的な箇所ではなく根本的な箇所を押さえることは重要だ。

事例ベース、コメントベースでの話が平気な人であれば読んでみてもいいと思う。

安藤昌也『UXデザインの教科書』基礎から応用まで概観できるスタートに最適な1冊

今や仕事でもプライベートでもITは欠かせないものになっている。

私たちが業務システムでもWebサイトでも、はたまたスマホのアプリでも、それらを使うときに対面するのがUI、すなわちユーザーインターフェースだ

UIは、人間と機械の接点(インターフェース)となるので、もちろんUIがイケてないと、人間は「このシステムは使いにくい」と認識する。

サービサー目線で考えると、UIがイケてないと、使いにくいと判断されアプリの利用率が下がってしまう。死活問題だ。

確かに、このようにUIはとても重要だが、果たしてそれだけだろうか?

例えば、ECサイトの場合、サイトがとても使いやすくても、注文した品が全然届かなかったり、問い合わせの回答が酷かったりすれば、そのサービス全体は使いにくいものとなってしまう。

ここで登場するのがUX、すなわちユーザーエクスペリエンス、体験価値だ

UIだけに留まらず、サービス全体としての使いやすさ、サービス全体のユーザビリティーを表した概念がUXであり、サービス向上にはUXの向上が必要となる。

そんなUXの向上、すなわち、UXをどうデザインしていけばよいかを解説したのが『UXデザインの教科書』だ。

UXデザインの教科書

UXデザインの教科書

 

さぁ、読んでみたくなっただろう。

UX、またはUI・UXの本は巷に溢れているが、どうもWebシステム、またはスマホなどシステムの画面に閉じた話が多いように思える。

一方、本書は、私が実際に読んでまとめた内容を見てもらえばわかる通り、基礎知識から始まり、応用テクニックや実際のプロジェクトの進め方まで一通り網羅している

流石は「教科書」と銘打っているだけある。

ぜひ、UXの神髄を体系的に頭の中に収めてほしい。

指標

  • テーマ:UX/デザイン
  • 文章量:少なめ
  • 内 容:易しい
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★☆

内容

1 概要

概要の説明から始まるが、UX自体のというよりUXが生まれた背景や歴史がメインだ。

後半には具体例としてタイプの異なる3つの適用パターンが紹介されている。

  • 1.1 UXデザインが求められる背景
  • 1.2 ユーザーを重視したデザインの歴史
  • 1.3 UXデザインが目指すもの

2 基礎知識

ここからが本番。
2章は基礎理論、3、4章と進むにつれて実践的な内容になっていく。

2.1 UXデザインの要素と関係性

UXデザインを構成する各要素、コンセプトを概観している。

登場人物としては、

  • ユーザ
  • 製品・サービス
  • ビジネス

の3つでありUXデザインは、

  • デザインの対象領域もろもろからくる情報
  • ビジネスとして捉えたときの情報
  • デザインについての諸理論

をインプットに、

  • 体験価値
  • 利用文脈
  • 製品・サービス
  • ビジネス

を考えねばならぬ、と説明している。

2.2 ユーザー体験

ユーザー体験といっても(主に)時系列的にいくつかの種類がある。

例えば、楽しみだなぁと体験する前に思うことも、それは予期的UXというものに含まれることになる。

そして、そんな一連の価値がどのようにユーザーの体験価値に繋がっていくかを説明している。

なぜそこまで体験価値に注目するかというと、それは本質的ニーズを捉えるためだ。

2.3 利用文脈

利用文脈とは、ユーザーと製品・サービスとの関わりであると説明している。

製品を使う状況や目的によって話は変わってくるぞ、という話。

2.4 ユーザビリティ、利用品質

ユーザビリティは、体験価値がユーザーの主体的な想いであるのに対し、製品自体の性質だと対比されている。

2.5 人間中心デザインプロセス

ここで話が少し変わり、では実際にUXデザインをどう進めていくかという内容になる。

UXデザインはHCDと同義ではないが、HCDプロセスの考え方を活用してデザインに取り組んでいく。

と、書かれているとおり厳密には異なるのかもしれないが、UXデザインに通じるものとして人間中心デザイン(HCD)のプロセスを説明している。

2.8や3、4章がより実践的な方法の紹介であるのに対し、ここでは少し抽象的で理論的な内容になっている。

2.6 認知工学、人間工学、感性工学

デザインに関連する諸分野の紹介、説明だ。

2.7 ガイドライン、デザインパターン

ガイドライン、パターン、ルール、指針、言葉は何でもいいのだけど、デザインに関するそういったものを紹介してある。

2.8 UXデザイン

以上の要件を満たすように、実際にどうUXデザインを進めていくかを説明してある。

2.5よりは実践的で、3、4章の導入にあたる。

3 プロセス

2.8で提示されたUXデザインに関する実践的な一連のプロセスに対し、各プロセスの詳細を説明している。

  • 3.1 利用文脈とユーザー体験の把握
  • 3.2 ユーザー体験のモデル化と体験価値の探索
  • 3.3 アイデアの発想とコンセプトの作成
  • 3.4 実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化
  • 3.5 プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化
  • 3.6 実装レベルの制作物によるユーザー体験の評価
  • 3.7 体験価値の伝達と保持のための基盤の整備
  • 3.8 プロセスの実践と簡易化

4 手法

3章は各プロセスの説明がメインで、その具体的なイメージとしていくつかの手法を登場させた。逆に、4章ではプロセスで使用される手法自体に焦点を置いている。

  • 4.1 本章で解説する手法
  • 4.2 「①利用文脈とユーザー体験の把握」の中心的な手法
  • 4.3 「①利用文脈とユーザー体験の把握」の諸手法
  • 4.4 「②ユーザー体験のモデル化と価値体験の探索」の中心的な手法
  • 4.5 「②ユーザー体験のモデル化と価値体験の探索」の諸手法
  • 4.6 「③アイデアの発想とコンセプトの作成」の中心的な手法
  • 4.7 「④実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化」の中心的な手法
  • 4.8 「④実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化」の諸手法
  • 4.9 「⑤プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化」の諸手法
  • 4.10 「⑤プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化」の諸手法
  • 4.11 「⑥実装レベルの制作物によるユーザー体験の評価」の諸手法
  • 4.12 「⑦体験価値の伝達と保持のための指針の作成」の文献紹介

まとめ

教科書と銘打っているだけあって、良くも悪くも教科書である

概要、理論、実践と順序だって幅広く、わかりやすくまとめられている。

余談になるが、非常に論文じみたこの構成、やはり著者が研究者だからだろうか。

UXについて概観するにはとてもいい本だが、それ以上を求めるとより詳細な理解や実践が必要になるなと思えたのも否めない。

UXは、よくUIとセットにされがちだが、決してシステムの画面やら狭義のデザインやらに閉じた話ではない。

むしろ、経営戦略というトップダウンに対し、ユーザー層からのボトムアップとしてビジネスを形づくる双璧となりえるものだと感じた。

各コンセプトに関して、もう少しつっこんだ本も読んでみたい。

ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』くだらない心理テク本をたくさん読むくらいなら、この1冊を読もう

誰だって心理学には興味がある。

なぜなら、ちょっとしたテクニックで他人をコントロールできれば、いろいろと役に立つからだ。

私もその1人であるが、今まで良い本に出会えていなかった。

理由は、よくある一般書籍は、それこそ表面的なテクニックが並べられているだけで、それを覚えこそすれど体系的に理解することができなかった。一方で、体系的に書かれている本を探すといわゆる学術書に行きついてしまうからだ。

求めていることは、そうじゃない。

そんな時、応用的な心理学が体系だって書かれている、とてもバランスの良い本に出会った。

それが、本書『影響力の武器』である。

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

本書では、いろいろな心理学的事例を、なんと6つの法則に集約している。

例えば、「ドア・イン・ザ・フェイス」のような有名なテクニックも、この6原則に含まれてしまうのだ。

信じられないという人は、私が実際に読んでみて内容をまとめたので見てみてほしい。

ぜひ、本書を読んで6つの法則を押さえ、今までのテクニックを寄せ集めただけというレベルから脱却してほしい。

指標

  • テーマ:心理学
  • 文章量:普通
  • 内 容:易しい
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★☆

内容

第1章 影響力の武器

この本の中心となるコンセプト「カチッ・サー」を紹介している。

「カチッ・サー」とは、ボタンを押すとテープが流れる様を表している。

すなわち、人はあるトリガーによって引き起こされる行動パターンを持っている。

本来は、このような、ある条件に対する反射的な反応は、わざわざ考え込むという時間を省略できるので、効率的であり経済的であるのだ。

しかし、中にはこの仕組みを悪用したり、ちょっとした武器として利用する人がいる。

本書では、その仕組みを6つの法則に集約し、その行動パターンと対抗策について説明している。

第2章 返報性

いわゆるギブ・アンド・テイクのことだ。

だいたいの人は理解できると思うが、誰かに何かをしてもらったとき、自然と次はこちらから何かをしてあげようという気持ちが湧く。

これを利用すると、先にこちらから何かをしてあげれば、自然とこちらが欲しいものを相手に要求できるかもしれない。

この逆バージョンとして、譲り合いもこのパターンに含まれる。

つまりは、今回こちらが譲ったのだから、次回はそちらが…という圧力だ。

このパターンに比較的有名な応用テクニック譲歩的要請法、つまりドア・イン・ザ・フェイスが含まれる。

第3章 コミットメントと一貫性ー心に住む小鬼

人は、自分の言葉や行動を一貫したものにしたいという欲求がある。

そのため、人はコミットメント(他者への宣言、意志の表明)を行うと、その後はそれに合致した要求を受け入れやすくなる。

思い返してみれば、学校や会社が本人に目標を考えさせ、みんなに見える形で書き出させるのは、この原理に則っている。言ってしまったからには、達成せねばという気持ちになるのだ。

第4章 社会的証明ー真実は私たちに

ザ・日本人のような、空気を読む、まわりの人に従ってみるというやつだ。

よくある話だが、自分は絶対にAだと思っていたのに、他の人全員がBと答えると、なぜか自分もBと答えてしまうのだ。

第5章 好意ー優しそうな顔をした泥棒

誰だって好意を抱いている人のお願いは聞いてあげたいものだ。

ちょっとおもしろいと思ったのが、この原理をもう一歩進めると、人は望ましいものを自分自身と結び付けたがるという性質が見えてくる。

例えば、スポーツを観戦している人は応援しているチームが勝つと「俺たちは勝った!」と叫ぶ。しかし負けると「奴ら負けやがって!」と愚痴るのである。

第6章 権威ー導かれる複縦

有名なミルグラムの研究、すなわち権威を持った支持者からやれと命じられれば、それが致死的な量でも電気ショックのボタンを押してしまうというやつだ。

悲しいかな、偉い人が指示すると、人は偉いというところばかりに気を取られ、その内容はあまり気にせず盲目的に従ってしまうようである。

第7章 希少性ーわずかなものについての法則

こちらも実感できる性質だろう。

数量限定、期間限定と言われるとついつい買ってしまう。

確かに希少性があると論理的に考えても手に入れておいた方がいいのかもしれないが、それとは別に心理的な力もはたらいてしまうのだ。

第8章 てっとり早い影響力ー自動化された時代の原始的な承諾

冒頭での「カチッ・サー」という素早い意思決定は、情報過多な現代には必要となる性質だ。

そのトリガーや発動する場面が、想定されたものである限りなんの問題もない。

しかし、ねつ造されたトリガーや、悪意のある場合には、発動し掛けている性質を自覚し、対抗していかなければならない。

まとめ

冒頭にも書いたが、この本を見つけたとき、求めていた本はこれだよ!と思った。

心理学の本といえば、学術よりの専門書か、応用例が羅列されただけの一般書だけしか知らなかった。

繰り返しになってしまうが、この本の価値は、専門用語を使わずあくまで臨床的である内容にもかかわらず体系的かつ演繹的に書いてあるところだと思う。

それでも専門家から見ればくだけ過ぎた内容なのかもしれないが、パンピーが普段の生活で応用するには十分な内容だ。

悪用はいけないが、普段ちょっとした機会に使えるテクニックを身につけるには良い本だろう。

D.A.ノーマン『誰のためのデザイン?』ユーザビリティーについて深く根本的な理解を得よう

あなたがシステムや機械の操作を間違える。

そして、上司や管理者に怒られた後で、あなたは思う「だって使いにくいんだもの」

 

誰しも今まで使いにくいアプリや機械に出会ったことはあるだろう。

  • なぜ、デザイナーはこんな使いにくものをつくったのだろう?
  • 人が使いやすいものをつくるにはどうしたらいいんだろう?
  • そもそも、使いやすいってなんだろう?

そんな問いに答えてくれるのが、デザインについての古典ともいえる『誰のためのデザイン?』だ。

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

 

今となっては、UI・UXなどのユーザビリティーや人間中心設計という考え方は、それなりに普及してきた。

しかし、当時は技術が未熟なこともあり、機械の都合に人間が合わせることも少なくなかったそうだ。

そんな時代に、初めてユーザビリティーという概念を定義し、それを解説したのが本書だ。

さぁ、読んでみたくなっただろう。しかし、いささか問題がある。

デザインという分野もあり、書いてあることが抽象的で、けっこう難しい。

そこで読んでみようかなと思う人に向けて、

  • どんな本なのか概観するため
  • 読んでいる最中に現在地を見失わないようにするため

簡単に内容をまとめた。

繰り返しになるが、本書に出てくる概念は抽象的で少し難しいものもある。

本書を読む際は、常に具体的なイメージに落とし込みながら、読み進めることをお勧めする。

指標

  • テーマ:デザイン
  • 文章量:多め
  • 内 容:難しめ
  • 行 間:普通
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

第1章 毎日使う道具の精神病理学

まず、デザインを議論するうえで必要となる基本的なコンセプトの説明から入る。

ノーマン曰く、機械は単純なルールに従うのみで融通の利かないものだ。

それなのに、人がこの奇妙なルールに従わないと機械は動かないし、何より人が非難される。

あるべきはそうではないのだ。

人はよく間違う。この「人はよく間違える」というルールに、機械の方を従わせるべきなのだ。

 

ノーマン曰く、良いデザインには2つの特徴がある。

  1. 発見可能性
  2. 理解

そして発見可能性は、

  • アフォーダンス
  • シグニファイア
  • 制約
  • 対応付け
  • フィードバック

の5つの心理学的概念から得ることができる。

本書を読む際は、この関係性を意識するとよい。

また、デザインに「理解」を与えるためにはシステムの概念モデルを考える必要がある。

第2章 日常場面における行為の心理学

次に、人と機械のインタラクションのフローを説明している。行為の七段階理論だ。

すなわち、人が機械を操作するとき、

  1. ゴールの形成
  2. 行為のプランニング
  3. 行為系列の詳細化
  4. 行為系列の実行
  5. 外界の状態の知覚
  6. 知覚したものの解釈
  7. ゴールと結果の比較

というステップを辿るのだ。

これはちょうど人から機械、機械から人へとV字になっている。

第3章 頭の中の知識と外界にある知識

人が何か行動を起こすとき、必要な知識は人の頭の中にあると思われがちだ。

確かにそのような知識もあるが、案外その場で目に入った情報を利用している。

例えば、新しくダウンロードしたアプリだって、なんとなく操作できる。これは、ボタンの形だったりが、そこを押すことができ、押したらどうなるかということを示している。ボタン自体が外界にある知識となっているのだ。

しかし、iPhoneユーザーがアンドロイドを使うと戸惑う。

これは、すなわち、そういった外界にある知識を利用するにあたり、文化や習慣がベースとなり下支えしていることを意味する。

第4章 何をするか知るー制約、発見可能性、フィードバック

人が何ができるか、どうすべきかを知るとき4つの制約を利用している。

  • 物理的制約
  • 文化的制約
  • 意味的制約
  • 論理的制約

制約というとわかりにくいが、つまりは、何ができないかを示すことにより、何ができるかを浮かび上がらせるのだ。

例えば、物理的制約として、レバーが1方向にしか動きそうにないなら、そちらに動かすしかないのだ。

第5章 ヒューマンエラー? いや、デザインが悪い

まず、人が起こすエラーをスリップ、ミステークの2つに分け説明している。スリップとはいわゆるうっかりのことで、ミステークは意図的なものだ。

どちらにしろ人はエラーを起こすので、

  • エラーの防止
  • エラーが起きた場合の対処

というのを機械側で想定しておかなければならない。

第6章 デザイン思考

ここでデザイン思考の登場だ。

デザイン思考とは、

  • 観察
  • アイデア
  • プロトタイピング
  • テスト

の4つを反復するというプロセスだ。

第7章 ビジネス世界におけるデザイン

題の通り現実的、特にビジネスの文脈における留意点を説明している。

まとめ

いやはや、読み始めた当初は話が抽象的で何を言っているかいまいち掴めない本だった。

ただ読み終わって、かみ砕いて消化してみれば、内容の全てがその通りであるように感じた。不思議である。

個人的に読んだきっかけは、いわゆるシステムのUI設計に最適解はあるのかと疑問に思ったからだ。そういう意味では、まったくもって明日からUI設計に活かせる内容ではないかもしれないが、すべてのデザイン(設計)に通じる深く根本的な考え方を理解できた気がする

何であっても、ものづくりに携わる人には、広く勧めたい本だ。

M.E.ポーター『競争優位の戦略』これも読もう、2冊合わせてポーターの屈強な理論を完成させる

偉大なる経営学者マイケル・ポーターは、最年少でハーバード大学の教授になった後、1980年に『競争の戦略』を出版した。

『競争の戦略』では、5フォースというフレームワークをベースに業界における競争戦略がどうあるべきか、緻密な分析がなされた。

そして1985年、その姉妹書として出版したのが『競争優位の戦略』である。

競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか

競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか

 

『競争優位の戦略』では、企業の中身に注目し、企業自体がどうあるべきかというところに焦点を当てている。

さぁ、読んでみたくなっただろう。しかし、『競争の戦略』と同じ問題にぶち当たる。

とにもかくにも分厚過ぎる。

なんと、650ページあまりだ。『競争の戦略』は、500ページであった。さらに分厚くなっているではないか。

実際、本書に挑戦するのは、『競争の戦略』を読破した人が多いだろうから、そこまで心配はしていないが、それでもなお指針は必要だろうということで、『競争の戦略』と同様に『競争優位の戦略』の内容のまとめを共有することにする。

ぜひ、これを参考に『競争の戦略』にも負けない、ポーター節を味わってほしい。

 

なお、どちらから読んでも構わないと思うが、『競争の戦略』を読む場合はこちらを参考にしてほしい。

www.take2biz.com

指標

  • テーマ:経営戦略
  • 文章量:とても多い
  • 内 容:高度(緻密)
  • 行 間:狭い、とても丁寧
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

序文

1章 競争戦略

どちらから読んでも構わないと思うが、本書では本書と『競争の戦略』の関係性や『競争の戦略』の復習から入る。

具体的には、5フォース3つの基本戦略のおさらいだ。

パートⅠ 競争優位の原理

まず、価値連鎖というコンセプトを導入する。

そして、それをベースに基本戦略の説明が続く。

2章 価値連鎖と競争優位

5フォース、3つの基本戦略など超有名フレームワークを生み出したポーターだが、もうひとつ価値連鎖(Value Chain)を生み出したのもポーターである。

価値連鎖とは、企業が価値を生み出していく過程を体系的に表したものだ。

例えば、製造業であれば製品の製造過程をイメージすればわかりやすいが、価値連鎖にはサービス業も、またバックオフィスのようなところも含まれてくる。

3章 コスト優位のつくり方

まず、3つの基本戦略のうちコストリーダーシップ戦略について分析する。

価値連鎖を用いると、コストがどう生まれ、どう振る舞い、どうコントロールすればよいかが見えてくるのだ。

4章 差別化の基本的考え方

次に、差別化戦略についての分析だ。

コストリーダーシップ戦略の分析と同様に、価値連鎖を用いることで何が差別化を生み、どう戦略に落とし込んでいけばよいかが見えてくる。

5章 技術と競争優位

今では当たり前かもしれないが、価値連鎖を支えるのは企業が保有する技術だ。

よって企業は技術を戦略的に扱っていかなければならない。これを技術戦略と呼ぶ。

本章では、技術と競争優位の関係について迫る。

6章 競争相手の選び方

『競争の戦略』でいう買い手(供給業者)に対する戦略と同じで、自分に都合のいい競争相手はうまく取り込んでおけという話だ。

個人的には、確かにそうなんだけどジャイアン的思想であまりよく思わなかった。

パートⅡ 業界内部の競争分野をどう決めるか

ここで思い出したかのように「業界」ってなんだっけという話が始まる。

すなわち、これまで「業界」を頼りに話してきたが、はたして競争する領域、分析する範囲としてどう考えていけばよいのか。

個人的には、意義の大きいパートだと感じた。

7章 業界細分化と競争優位

実際、「業界」の範囲は、なにを根拠として決めればよいのか。

それは、マーケティングのSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)のようなプロセスを経て、戦略的観点から決まる。

8章 代替に対する戦略

ある業界、すなわち、ある商品が、別の業界(商品)に取って代わられてしまうことは珍しくない。

本章では、そのメカニズムを説明している。

パートⅢ 企業戦略と競争優位

部署だったり事業部だったり、その関係性についての分析が始まる。

9章 事業単位間の相互関係

事業それぞれの間には、3つの相互関係がある。

すなわち、

3つの相互関係をあげ、その重要性を説明している。

  • 有形の相互関係
  • 無形の相互関係
  • 競争業者の相互関係

有形の相互関係とは、実際に有形のものや組織を共通化、共同化している場合。無形の相互関係とは、ノウハウの共有だ。そして、競争業者の相互関係とは多角化企業における相互関係だ。

10章 水平戦略の効用

相互関係がどのように価値連鎖へ影響を与えるかを説明している。

11章 相互関係の活用

では、実際、相互関係を築こうと思ったとき、もちろんメリットだけではなくデメリットも生じる。

相互関係を阻む壁や、そもそもコストが掛かったりする。

それをどう乗り越えていくかが問題だ。

12章 補完製品と競争優位

「レーザーブレード」というビジネスモデルを知っているだろうか?

レーザーブレード、すなわちカミソリの本体を安く売り普及させることで、専用の刃の需要を生み、儲けるという算段だ。

そういったカミソリの本体に対する刃を補完製品と呼び、本章では補完製品をどう考えるかということを説明している。

パートⅣ 攻撃と防衛の競争戦略

いよいよ総集編だ。

業界の未来に対し、企業をどう守り、どう攻めていくのか…

13章 業界シナリオと不確実性下の競争戦略

ここまでの内容を踏まえて、何をベースにどう戦略を立案していけばよいのか。

ありうる業界のシナリオを挙げ、それぞれのシナリオに対して戦略を練ればよいのだが、その緻密さとスマートさがさすがはポーターだ。

14章 防衛戦略

ずばり、どう防衛していくかという話だ。

理想としては、交渉なりなんなり水面下で戦いはすれど、そもそも攻撃されないようにしておくべきなのだ。

しかし、時には実際に攻撃されてしまい、反撃せざるを得ない場合もある。

15章 業界リーダーへの攻撃戦略

続いて、どう攻撃していくかという話だ。

業界のリーダー、すなわち業界1位でない企業は、いつかはリーダー企業へ挑戦し、倒したいと思っている。

その際、気を付けるべきはなんなのかを説明している。

まとめ

率直な感想としては、やはり『競争の戦略』よりも分量が多く、読むのが大変だった

しかし、個人的には『競争の戦略』よりも本書の方がより勉強になった気がする。

というのも『競争の戦略』で扱う業界単位の話は、だいたいの人に取っては話が大きすぎて、それこそ戦略コンサルティングを生業としている人か学者にしかリアリティがないのではないだろうか。

一方で、本書が扱う企業価値の話は、まだパンピーにとって身近に思えた。

例えば、企業価値なんかも自分の会社の各部署を思い浮かべれば何となくでもイメージできるはずだ。

にもかかわらず、『競争の戦略』は読んでいても、本書まで読んでいる人が少ないのは残念なことだ。

ポーター自身も、この2冊を姉妹書と位置付けている。

確かに、2冊揃ってはじめて屈強なポーター理論が完成すると思う。

合わせて1000ページ、とても大変だが、読破した暁には新しい景色が見えると思う。

ぜひ、読んでほしい。

M.E.ポーター『競争の戦略』なぜ古典的名著なのか?実際に読んでみてわかった偉大さ

最も知名度がある超ド級の経営学者といえばマイケル・ポーターだろう。

その名を知らなくても、5フォースコストリーダーシップ差別化戦略バリュー・チェーンという言葉は聞いたことないだろうか?

彼は、史上最年少でハーバード大学の教授となった後、1980年にある1冊の本を書き上げた。

それが経営戦略論のバイブルとして今なお愛読されている『競争の戦略』である。本書では、5フォースを中心にポーターの緻密な理論が展開されている。

競争の戦略

競争の戦略

 

さぁ、読んでみたくなっただろう。しかし、ここに重大な問題がある。

とにもかくにも分厚過ぎる。

決して易しくはない内容が500ページにもわたり、本屋で手に取ってみるとその重さたるや、なかなか持ち歩いたり、電車の中で読む気にはならない。

読書に慣れていない人は、きっと怖気づいてしまうことだろう。

しかし、書かれている内容は素晴らしい。

巷には解説書のような薄っぺらい本が溢れているが、ポーターの良さはその緻密さにあると思う。ぜひ、それを味わってほしい。

そこで、これから読んでみようかと迷っている人の助けとなるべく筆を執った。

すなわち、

  • 誰しも得体のしれないものは怖い。ある程度、内容を知れば、読み始めるハードルも下がるはずだ
  • 読んでいる最中も全体の流れの中で現在地を見失わなければ必ず読み終わることができるはずだ

という考えのもと簡単に内容をまとめてみた。

ぜひ、これを参考に近代の経営戦略論の原点を味わってほしい。

 

ちなみに追い打ちを掛けるようだが、本書には姉妹書『競争優位の戦略』が存在する。

この本もぜひとも読んでほしい本だ。

安心してほしい。こちらの本にも同様の手助けを用意してある。

www.take2biz.com

指標

  • テーマ:経営戦略
  • 文章量:とても多い
  • 内 容:高度(緻密)
  • 行 間:狭い、とても丁寧
  • 推薦度:★★★★★(満点)

内容

パートⅠ競争戦略のための分析技法

パートⅠでは、これから始まる緻密な分析に必要となる基本的なコンセプトの説明から始まる。

1章 業界の構造分析

本書、すなわちポーター理論では、自社が業界の中で自社に有利な位置を陣取ることができれば競合との競争に勝つことができるという考え方がベースになっている。

そのために、まず必要となるのが業界の構造分析だ。

ここで登場するのが、超が付くほど有名な5フォースというフレームワーク。

説明する必要もないかもしれないが、5フォースとは業界に、

  • 買い手の交渉力
  • 供給企業の交渉力
  • 新規参入業者の脅威
  • 代替品の脅威
  • 競争企業間の敵対関係

という5つの競争要因(=5つの力)が存在するという考え方だ。

2章 競争の基本戦略

そのような業界の中で戦っていく際に指針となるのが、3つの基本戦略だ。

すなわち、

  1. コストリーダーシップ
  2. 差別化
  3. 集中

の3つであり、これらのうちどれかを選択することが重要である。あっちもこっちもと二兎を追ってはいけない。そうすると戦略がぼやけてしまうのだ。

ちなみに、このコンセプトについては、姉妹書『競争優位の戦略』の方でより詳細に扱われることになる。

3章 競争業者分析のフレームワーク

さて、ここからが本番で、いよいよポーターの緻密な分析が始まっていく。

競争の戦略というだけあって、まずは競争業者を分析するための切り口を説明している。

4章 マーケット・シグナル

マーケット・シグナルとは、他社の行動を予知する手掛かりとなるものだ。

すなわち、企業が何かを企むと、どうしてもその行動が何らかの形で市場に滲み出てしまうのだ。

これは競争において重要なものとなる。

マーケット・シグナルをキャッチして適切に読み解くことができれば、競争業者が何を企んでいるのか予知できるからだ。

5章 競争行動

競争行動とは、こちらが何らかの戦略を行使したときに、対抗なりなんなり競争相手が示す反応のことだ。

すなわち、戦略を考える際には、相手の競争行動があるところまで考えておかねばならない。

こちらの戦略に対し、競争業者が業界もろとも破滅に追い込むような愚行を取ることが予想される場合、その戦略は使うことができない。

例えば、値切り合戦のような構図になってしまっては業界が疲弊してしまう。

6章 買い手と供給業者に対する戦略

言ってしまえば、自分にとって都合のいい買い手を選んでおこうという内容だ。

立場を逆にすれば、供給業者に対する戦略となる。

7章 業界内部の構造分析

ここまでは業界単位で話を進めてきたが、本章では業界内部を分析する。

そのために戦略グループというものを定義する。これは、すなわち業界内部で戦略の方向性によって分類したグループである。

この戦略グループを定義することにより、これまで業界単位で行ってきたようなのと似た分析が業界内部でできるのだ。

ここで少し考察を入れるとすると、この業界単位での分析を業界内部に適用する入れ子メソッドを導入することにより、より細かい単位での分析が帰納的に進めていけそうだ。さすがはポーター、恐ろしい…

8章 業界の進展・変化

ここまでの分析では時間軸を意識してこなかったが、もちろん業界はどんどん変わっていくものだ。

これも分析に入れねばならない。

しかし、業界の変化を予想するのはなかなか困難だ。

よって、その変化自体ではなく、変化を引き起こす要因に注目しておけば、なんとか対応できそうだ。

パートⅡ 業界環境のタイプ別競争戦略

ここからは業界の状況を絞って、より具体的な話に入る。

内容は章のタイトルの通りなので割愛する。

  • 9章 多数乱戦業界の競争戦略
  • 10章 先端業界の競争戦略
  • 11章 成熟期へ移行する業界の競争戦略
  • 12章 衰退業界の競争戦略
  • 13章 グローバル業界の競争戦略

パートⅢ 戦略デシジョンのタイプ

パートⅢでは、決めなきゃなんねぇって場面を3つほど取り上げている。

14章 垂直統合の戦略的分析

つくるか、買うかをどう決めるか。

間接的な影響も含めて判断すべきという話。

15章 キャパシティ拡大戦略

工場とか設備を大きくしてよいか。

当然、需要があるのは必須だが調子にのると業界全体が設備過剰になってしまう。

16章 新事業への参入戦略

吸収合併または社内での新規事業としてどう参入していくか。

また、参入の成果は基本的な市場要因で決まってしまうと説明している。

まとめ

実際に読んでみて、壮大な本だった。

まず驚いたのは、あれだけ有名で、かつ本書のベースとなる5フォースの説明がたった1章で終わってしまったことだ。

あくまで5フォースという枠は業界構造を捉えるためのフレームワークに過ぎず、重要なのはそれを用いた緻密な分析にある。

いやはや、ここまで緻密な分析とは思っていなかった

非常に丁寧な展開ではあるのだが、読み進めるごとに分析すべきことが指数的に増えていっており、なぜ戦略コンサルタントが職業になるのか実感できた。

同時にそれが本書を読む醍醐味であり、本書が古典的名著であり、その理論が多くの影響を与えていることも理解できた。

冒頭にも書いたが、確かに分量が多いので読むのは大変である。

しかし、学ぶことも多く、ぜひとも時間を割いて読み込むべき本である